元親の形相に、幸村ならず佐助も驚く。向けられる怒りは幸村にだが、そんなこと関係なく、放つ覇気には迫力があった。
政宗曰くの、騎士精神か知らないが、思わず佐助が幸村の前に出て背にかばってしまうほどだ。
無論、幸村がそれを甘受するわけがない。
すぐに前に出て、元親を負けじと睨みつける。
かわいらしい容姿の時点で、既に負けているが。
「何用ですか?」
幸村の問いに、元親はただ一言言い放つ。
「センパイの腕を離せ」
センパイ?
その言葉に幸村は首を傾げる。
先輩は明らかに二年生のそちらだろうと思っていたら、強い力で幸村は腕を掴まれた。
「早く離せ」
遠慮も容赦もない、力任せのそれに、幸村は痛みと本能的な動きから佐助の腕をぱっと離した。
元親の手は、すぐに幸村から離れた。
「……腕、大丈夫か?」
怒りの表情から一転。苛烈な炎が消え失せ、秋の木枯らしのように寂しげで、悲しみをこらえた瞳をする。
「別に大丈夫だけど……『センパイ』って……」
佐助は、目の前にいる青年が何者かを、まだわかっていない。上の学年であることを示す学章を見て、"先輩"と呼ばれることに、ただただ困惑している。
そんな佐助に、元親は苦笑を溢す。
「久しぶりだからな。分からないのも無理ねえよ。俺、四年間で凄く変わったからな」
ふわ、と元親の気配がやわらかくなった。
それは怒りでも寂しさでも悲しさでもないものを、その隻眼に浮かべているから。
懐かしさと切なさを……
元親は眼帯を取り払う。
それは滅多に彼が他人の前に晒すことのない"忌み目"。
幸村はそれを見て、息を飲み、佐助はあ、と声をこぼし、驚きで目を見開いた。
「ちかちゃん……」
眼帯の下から現れたのは、紅玉を其処に閉じ込めたような赤い目。
あまりの美しさに、魂が吸い込まれそうな凄烈な、赤。
「え、まじかよ……なんで……」
佐助はゆっくりと元親に歩みよっていく。現れた目の隣に、指を置く。
自分よりも高い視線。
見上げる目は、元親と同じ。
かち合った瞬間に、それは二人の共有する記憶から生まれる、切なさと苦い思いを生んだ。
昔の知り合いとの再会を喜ぶ自分と喜べない自分がいる。
複雑な感情からか、驚きからか、佐助の声はかすれていた。
「……嘘。まじかよ……昔はちっちゃくて可愛かったのがこんなにでかくなっちゃってさあ……」
わかるはずねえよ、とぼやく佐助に元親は真摯な目を向ける。
はたから見る幸村が、危機感を覚えるほどの真っ直ぐで、迷いのない目。
(……やめろっ)
幸村は焦燥にかられて叫びそうになった。そんな目で佐助を見つめるな!
返す佐助の瞳が戸惑いで揺れている。
「でかくなっただけじゃない。あれから、強くなった」
ただ、守られるだけじゃ、駄目なのだと、あの時思い知らされたから。
「もう、二度とあんな思いをしないように」
その言葉に秘められた決意。
佐助はそう、と元親の真剣さを誤魔化し、かわすように苦笑した。
「佐助センパイのように誰かを守りたかったんだ」
その"誰か"は、元親の目の前にいる佐助なのだ。
佐助は四年前の記憶に思いをはせた。
痛みを伴う記憶。
それは煌めきが闇に塗り替えられる、絶望的な時の流れ。