佐助は、目の奥にちらちらと浮かび始めた黒い炎から目をそらすように、元親の視線からふいと逃げた。
元親の、変わらない真っ直ぐな目は、佐助の封じこめた記憶をまざまざと蘇らせる。
耳の奥につんざくのは悲鳴。それは元親のものなのか、はたまた己のものなのか。
「行こう、姫」
今度は佐助が幸村の腕を引いた。
「お、おう」
うつ向いて隠された表情が気になるが、先を歩かれているせいで見ることは叶わない。
聞きたいことはたくさんあった。けれど佐助の憂いる様子を見ると口を開くことが出来なくなる。
人は誰しも聞かれたくない過去や知られたくない過去を抱えている。それに踏みこまれたら嫌な思いをするのは佐助だ。
問によって封じていた過去が触発され、佐助の中で繰り返せば、傷つくのも彼。
ここまで佐助に哀しげな暗い空気を纏わせる、元親とのかつての過去が気にならないわけじゃない。
しかしこれは、幸村が踏み込んではならない領域。
(いつか……全部、佐助の口から聞けるくらい、佐助にとって大事で、信頼される男になりたい)
そして、佐助に辛い過去を背負わせないように、守りたいと……
幸村はちらと視線だけ振り返り、元親を見つめた。
(俺も、佐助を守るんだ……)
幸村の無言の宣戦布告に気付いた元親は、佐助に拒絶され落ち込んだ色をしていた目をがらりと変え、好戦的に見つめてきた。
赤い瞳がやけに爛々と輝く。それに気圧されまいと幸村は強い意思を瞳に込めた。
***
元就は結局、馬鹿げているとしか言いようのない企画書を取り下げることが出来なかった。
「愚か者どもめっ」
幸村好きが異様に幅をきかせるこの学校。幸村の人気は生徒会にまで浸透しているようだ。
"景品"がなんであるか最初知ってる彼らは、幸村を自分のものにできるチャンスに興奮し喜んでいた。
幸村を景品とする企画に反対する気などない。
これでは行きすぎたあのファンクラブの連中と変わらぬと、元就は知性も何もない輩共を、塵でも見るような目で眺めた。
無論ここで全てを諦めるような彼ではない。
むしろ、彼の策士が必要とされるのはこれからで、元就は出番を待つが如く、日の当たらぬ生徒会室で目を細めたのであった。