幸村は無鉄砲に突進したように皆の目に映ったが、政宗のカウンターパンチを素早く避け、反撃を繰り出す技に慶次と佐助が唸る。小太郎も感心してか、前髪の下の目をまるめた。
他のものは、二人の素早さについていけない。
「破!」
鋭い気合いを発し、幸村は政宗の銅に槍のような正拳突きを繰り出す。
後ろは机。
受け止めるには態勢が崩れ、ニ撃目を容易にくらってしまう。政宗はそれを左に避ける。
見計らっていたかのように幸村は体を落とし、政宗に足払いをかける。
ひゅっ。がっ!
風を切る音は狙った得物を刈り取れず、机をその勢いで吹っとばす。
机に当たっても幸村の足払いの威力は落ちない。それは驚嘆すべきことなのかもしれないが、
「ちっ」
空回りした足は政宗に攻撃されるに十分な隙を生む。
幸村の頭を政宗の容赦ない踵落としが狙う。
当たると思った瞬間、視界が塞がれた。
塞いだのは、佐助の体。
佐助は幸村を守るように抱き締めたのだ。
「さっ……」
やめろっどけっ!
頭の中で悲痛な叫びが響いた。
その一瞬。
瞬きの間に。
政宗の足が佐助に振り下ろされることなく空を切った。
「ふう。間一髪」
慶次によって。
慶次は幸村を守ろうとして立ちはだかった佐助を幸村ごとさらに自分の方へひきよせたのだ。
慶次が後ろから幸村を包むように抱きしめ、佐助が正面から幸村を抱き締めている。
幸村はサンドイッチ状態のまま固まっていた。
「頭は流石にまずいんじゃあないのかい?」
慶次の軽い声が、きん、と張りつめていた糸を切った。
慶次は二人から離れ、政宗を見つめる。それは子供のように毒気がないものだったが、どうにも底が知れない。
政宗は慶次からふいと目を反らす。敵意の無い者と自分に関わろうとしない者には興味が沸かない。
「knight二人をはべらせて、ずいぶんと大事にされてるみたいだなplinesecc」
政宗の皮肉は、幸村の耳に届かなかった。
小さな体をわなわなと震わせて、佐助の腕の中で震えている。
「姫?」
佐助はうつ向く幸村を心配し、密着した体をはなし、顔を覗きこもうとする。
しかし、佐助が上体をかがめる前に、幸村は顔を上げた。
きつく唇を噛み、今まで一度たりとも佐助を睨みつけたことがなかった幸村が、佐助に怒りをぶつけた。
「なんで俺を助けようとした!」
張り上げる声には涙が滲んでいる。
ひっ、と喉の奥で、何かがつっかかった。
「佐助が怪我をするかもしれぬと!
俺はっ怖かったんだからな!
今までっ……生きて、きてっ一番っ怖かったっ!!」
幸村は佐助を抱き締める。佐助が幸村にそえる腕よりも、ずっと強い力で。
佐助はそれに、何時もの飄々とした態度で返さず、真摯に答えた。
佐助の手が、泣きじゃくる幸村の背を撫でる。
「気付いたら、体が動いてたんだ……自分で避けようとしたものが避けられなくて、守ろうとすると体が動くんだから変な話だよな……
ごめん。姫。泣かないで……?」
幸村は佐助の肩に頭を押し付け、ゆるく首を横に振った。
それは一体、何に対しての否定なのか。
幸村は結局ホームルームが終わるまで佐助にしがみいたまま泣き続け、佐助もその間何も言わず幸村の背をなで続けた。
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「早野。本当にこのような戯れた企画を実行する気か?」
少年は苛立ちを隠さずに、言う。むしろ、切れ長の目に宿っているのは怒りに近いもの。
「会長さまを付けろ毛利。それに言葉遣いも気を付けろよ」
バサラ学園生徒会長、早野直行(はやのなおゆき)は、毛利を睨みつける。粗野な瞳は、自分の思い通りにことが運ばないとすぐに暴れるような子供を連想させる。横暴で独善的で、一緒に居るだけで不快になる少年であった。
このような者が学校の看板と言える生徒会会長を務めているのは、毛利にとっては理解不能な事態であった。
学園生徒の生徒会への関心の薄さは知っているが、知能がある程度発達している者であれば、直行が生徒会会長になるなぞ、ろくでもないことが起こると想像がつくだろうに。
金持ちの子息だらけでプライドがやけに高い少年たちが通うこの学校は、元々生徒のガラというか"質"悪かった。
自尊心だけ高く、我慢というものを知らない。
園児並に感情のコントロールがきかない者が多いのだ。
それが直行が会長になってから更に悪化した。
壊れる寸前の木箱に押し入れなんとか抑えつけていたものを、直行はそのタガを外し、箱を壊し、暴れると分かっているものを放逐したのだ。
真田幸村のファンクラブが起こした騒動も、直行が会長でなければ、そもそも起きなかった事態だと毛利は考える。
風紀委員の働きがなければ、この学校は更に悪い方向にひた走っていたに違いない。
今回の新入生歓迎会の企画もそうだ。
生徒たちに暴走しろと言っているようなものだ。
「くだらない、とみんながさわぐ"宝探し"が楽しくなるじゃないか」
直行はくつくつと喉を鳴らし、笑った。
毛利は手に持つ企画書に視線を落とす。
『"宝探し"の景品は一年A組真田幸村』
来る三日後、騒動は必至であった。