二人が出会いの一瞬で宿敵と反目しあい、睨みあっているうちに、大体のグループ分けは済んだようだ。
しかし……
佐助はクラスの隅でぽつんと座っている少年を見つけた。
誰にも誘われずにいるが、それに戸惑っている風は無く、むしろ俺に近付くな、と静かな空気で威圧している。
彼の周りだけは、賑やかなクラスと遮断していて、静謐で近寄り難い雰囲気があった。
片目は眼帯で覆われ、残る片目が外を眺めている。
放つ空気とは裏腹に、その目は寂しげに見えて……
だからだろうか?
佐助はつい小太郎から離れ、とことこと少年の側に行ってしまった。
佐助の動向をいつも見つめている幸村も、小太郎も睨みあうことに夢中で、それに気付かない。
慶次は気付いたが、少年に近付くことを止めようとしなかった。
周りの者……特に中学からの持ち上がり組が、佐助が少年の側に近寄るのを、あの馬鹿!と心の中で叫んだ。
触らぬ神に祟りなしという言葉が瞬時に思い浮かび、それを佐助に伝えたかったが、全てはもう後の祭。
佐助は政宗の視界に入ってしまった。
「あのさー伊達くんだっけ?
俺たちと一緒にチーム組まない?」
クラスメイトは、佐助の冥福を祈った。
『高校で最初の犠牲者はあいつかー』
『あーでもいつも姫独占してるし、逝っとけ』
『姫さえからまなきゃ、嫌いな奴じゃあなかった。哀れ佐助』
心の中で口々に勝手なことをいい、じり、といやな汗を滲ませながらじっと二人を見つめる。
伊達政宗。
彼は中学の頃から数々の問題を起こし、独眼竜とよばれ学校中から恐れられている。
あの風紀の鬼も、彼の動向を気にしているとかいないとか。
佐助は政宗に抜き身のナイフのような鋭い目付きで睨まれた。
それにびくとも動揺せず、佐助は政宗に飄々とした笑みを向けている。
佐助が見た、寂しげな儚さも消えて、険悪で剣呑で凶悪で狂暴で獰猛なものが濃い瞳の中で渦巻いていた。
「……うせろ」
低く唸り、佐助からふいと目を反らす。
クラス中がほっとする。
『今日は伊達の機嫌はいいみたいだな』
『あー運が良かったな猿飛。去れ。そのまま』
『ちっ。ぶっとばされて二度と学校に来れなくなれば良かったのによう』
クラス中が安堵のため息と残念がるため息に埋まる。
幸村と小太郎も睨みあいを止め、異様な空気を放つ政宗に警戒する。
幸村は、佐助に歩みよる。
政宗の側に佐助を置くのは危険だ。
その短い時間と距離の間に、
「そんなこと言わないでさ」
佐助は政宗の肩に手を置いた。
ぴり。
瞬間、政宗の空気が変わった。
黒く禍々しいものが凍え、そのまま触れた佐助の手を氷りつかせるようなきんと冷えた空気をまとわりつかせる。
「俺にさわんじゃねえっ!」
佐助の腕を振り払い、それだけではあきたらず、握った拳で佐助の頬を殴ろうとする。
佐助は避けなかった。
いや、避けることができなかった。
佐助の反応できる速度よりも、政宗の動きは速かったのだ。
べちん!
反射的にクラスの者半分以上が目を閉じ、その予想外に間抜けた音に目を開く。
人が殴られるときの音はもっと鈍く、小さい。
幸村の掌が、佐助の顔に当たる前に政宗の拳を防いでいた。
「あ、姫……」
人体の反射で佐助も目を閉じていた。予想していた痛みがないことにおそるおそる閉じた瞼を開くと、自分を守るように幸村が立っていて、佐助は驚きで目を見開いた。
大事なものが傷つけられそうになった怒りで、幸村の目が地獄の業火さながらに暗く燃えていた。
「貴様……」
低く唸るような声で、幸村は凄む。
政宗はひゅう、と口笛を吹いた。
佐助に見せた氷の気配はかき消えたが、狂暴さは消えず、むしろ獣のような危うさが増している。
「なかなかやるじゃねえか
prinecess」
喩揶る政宗に憤怒を深くし、幸村は佐助を背にかばいながら政宗を睨みつける。
氷の瞳と炎の瞳が空中で交錯し激突した。
冷気と熱気を生み弾け、教室中を異様なもので満たす。
ごくん、と誰もが唾を飲んだ。
この場で冷静なのは慶次くらい。
興味がなさそうに笑みを刻みながら、二人の間に入る機会をうかがっていた。
政宗と幸村が動いたのは、同時。
校舎に響きわたるほどの幸村の怒声があがった。