「けっざまあねえぜ」
佐助を眠りにつかせた少年は、佐助の体の支えを外し、床に転がせる。
佐助は起きる様子もなく、人形のようにぐったりとした四肢を放りだして眠っていた。
ここでセオリー通りにものごとが運ぶとしたならば、姫君佐助を助けるべく幸村が奇跡のように目覚めるはずなのだが、ところがどっこい幸村は佐助のピンチを知らず、今だ眠り姫を続けている。
佐助にぶちのめされ、倒れていた少年たちは、それにへらへらと奇妙で気味の悪い笑みを浮かべ、立ち上がった。
「ん万倍にして返してやる……!」
もともと気位が高く、他人に殴られたり、他人に圧倒されたりすることを知らない少年たちは、佐助にこてんぱんにされたことに腸を煮え繰り返していた。
彼らにとって佐助など、下流階級の出であり、エリートコースを進むべく自分たちには頭を下げなければならない、と傲慢に思い込んでいるのだ。
少年たちは、ボキボキと骨を慣らし、眠る佐助を囲んだ。
佐助を取り抑え、眠らせた少年が一番手。佐助の制服の襟を掴み、その端正な顔面を殴ってやろうと拳を握った瞬間。
バキ!
またも教室の戸が蹴破られた。
佐助の場合はその場に、バタンと倒れたのだが、今度は。
……ひゅっがっがしゃん!
吹き飛び、壁に当たり、ガラスが割れた。
派手な音に皆が呆気に取られて、入り口に目を向けた。
仁王立ちする人影にひぃっと皆が息を飲む。
銀色の煌めく髪。
「おめえら、ずいぶんと学校で暴れまわったみてえだな」
独特のしゃがれ声。
高校生とは思えぬ立派な体躯。
精悍な顔立ち。
そして、輝かんばかりの白い肌!
彼こそが!
「「「「風紀委員!!!」」」」
ファンクラブの面々が絶叫した。
バサラ学園の平和を守る鬼の風紀委員長、長曾我部元親その人である!
「「「「「兄貴ーー!」」」」
大歓声の兄貴コールをバックに背負い、正義の味方よろしく彼は登場した。
「お前らが屋上でやった馬鹿騒ぎ。それに、いろんな奴らにした暴力沙汰……今回こそはきっちり白日のもとに晒して、処分してやるからな」
幸村のファンクラブによる私刑は、学園側には目の上のたんこぶだった。
報復が恐ろしく、学園側に被害を訴えられない生徒たちは数知れず。
摘発したくても、学園内の微妙なバランス(金持ちの通う学校だから、親の上下関係だとか)があるために、手を出せなかったのだ。
しかし今回、彼らは影に隠れずに、誰の目から見ても明らかな騒動を起こした。
なんとか尻尾を捕まえる機会をうかがっていた風紀委員は、これを好機とばかりにすぐにファンクラブが根城としている教室に踏み込んだのだ。
そして、佐助を間一髪のところで救った。という結果に至る。
「さあて。真田幸村をまず保護してやらな……い、と……なあ!?」
元親の語尾が盛大に上がった。
見つめる先は、胸ぐらを掴まれた佐助。
「佐助先輩!!!!!」
元親は驚愕の大声をあげ、その怒声のせいか、薬が切れたのか、幸村の睫毛がピクリと動いた。