受験勉強で台母親の手伝いを最近していなかったが、今日は特別な日だから佐助は母と共に台所に立った。

ふたりどころか三、四人はゆったりと動ける台所はその場所の主をあらわすかのようにきっちりと整えられている。

「ケーキできた?」

「ん〜あとは上にクリームで模様つくっておわりかな。あとイチゴも乗せなきゃ」

佐助はざるに入れて水を切ったイチゴを手にとった。
スポンジに綺麗にクリームが塗られている。見事なでき映えは、とても素人のものとは思えない。均一にぬられたクリームの上にイチゴを飾っていく。生クリームを絞り、市販のチョコレートのカードと飾りを置き、クリスマスケーキが完成した。

「そっちは?」

「フライドチキンとポテトは揚げ終わったわよ」

あとはサラダとピザかな。
あとはとにかく作れるものは作ってしまおう。
佐助はレタスをちぎって水洗いをはじめた。

そうそうクリスマスと言えば。

「シャンパンは用意した?」

「シャンメリーは冷蔵庫に入ってるから。コップ用意しておいて」

母親の言葉に、今は手が塞がっていますと洗っているレタスを上げて主張する。

それを見て、すこし憤慨しながら自分で戸棚からグラスをみっつ出した。
家族の人数分よりも多いグラスを見て、佐助の母はふと思いついたままに口を開く。

「ほんとは春日くんといっしょにいたかったんじゃないの?」

恋の話が大好きな少女のように娘に含み笑いをする。
佐助は母親の思い込みに内心でため息をつく。

「違うって。あいつはただの幼馴染み」

照れだとか恥ずかしさだとかではなく、本当にそう思っているのだから母親や父親の誤解は迷惑甚だしい。

「せっかくだし家に呼べばいいのに。春日くんならいつだって歓迎するわよ」

佐助の話をまったく聞かずに、提案する。それが名案だというように母親の様子は朗らかだ。

佐助は眉宇を歪めた。本人に全くその気がないのに勝手に付き合っていると決められて話をされるのはいい気分ではない。

「あのねえ。何度言えばわかるかなあ……」

そのとき、客の来訪を告げるチャイムが鳴った。

「お客さんだよ」

話が中断されたことにすこし苛立ちを見せながら、玄関に行くように促す。
しかしそれに返されたのは、コップを両手に上げる仕草。準備しているからいけないと言いたいらしい。

自分がしたそのままを返されて、佐助はむっとする。
しかしこのまま口論に発展するような性格でも、来客の対応をするのが心底いやなわけでもないから、エプロンで手を拭きながら急ぎ玄関に向かった。

玄関のにごり硝子戸を開けると見知った人が立っていた。うわさをすれば影だね。

「どうしたのさ、かすが? なにか用?」

まさかクリスマスのお誘い? 冗談じみて笑う顔が次の瞬間凍りつく。かすがの背後にいた人物に気付いたからだ。

だんな。

唇がその三文字をつくった。

信じられない、と幻でも見るように瞠目し細い肩を震わせた。

「なんで」

おののく唇が、ちいさくつぶやく。

今この場所にいるはずのないひとが。
なぜ、ここにいるの?

「佐助……?」

動揺しているのは佐助だけではない。
幸村もだ。
男だとばかり思っていた佐助が、明らかに女性と分かる姿をしていている。

やわらかい線を描く体。すんなりとした肢体を包むのは淡い色調を基本とした女性ものの服。

女の子みたいだと何度もおもった。すこしちいさく見えるからだ。時折みせる繊細さ。
手を差し伸べて守りたくなる華奢な姿。

そこまで見ていて、なんでわからなかったんだ?
佐助はどこからどう見ても女の子じゃないか。

「お前、おんな、だったのか?」

冷静な春日だけが、平然と成り行きを眺めている。
かすがからすれば陳腐で莫迦げた台詞は、佐助には胸を抉る刃に等しかった。
幸村の秘密が知られる覚悟なんてまったくなかった。
男と、女。区別する言葉が突き放されたようだ。
……幸村がそんな気でないことはわかっている。
でも……頭ではわかっても、ずきずきと痛みをうったえるこころが、涙が流れそうなくらい叫ぶのだ。

「見ないで!」

と。弱い自分の姿をずっと隠していたのに。
自分を弱くさせる原因をずっと隠していたのに。

強くなってから。一歩踏み出すときに告げて、すこしずつ前に進んでいきたい。

そんな風に俺の強くなる機会を、貴方は奪ってしまうの?

見ないで、見ないで、見ないで。
弱い自分を見ないで。

「なんで、なんで約束破ったんだよ!こないでっていったのに!」

涙混じりに詰る声に幸村は神妙にうつむきすまぬと謝る。

「まだ……知られたく、なかった。知って……ほしく、なかったのにぃ……」

しゃくりあげる佐助に幸村は心臓の位置をぐっと掴む。悲痛に響く声が幸村を責める。

すまない。もう一度告げて、幸村は佐助の体を覆いかぶさるように抱きしめた。

佐助の細い背を幸村の腕が包み込むようにやんわりと締め付ける。

服越しに伝わる暖かい温度。
聞こえる幸村の鼓動。

俺が、女の子ってわかったから手加減しているのかな?
再開したときの抱擁は、呼吸がままならなくなるほど苦しかったけど、こんな風に涙が流れそうになるほど胸を締め付けなかった。
もっと幸せを感じて、体いっぱいに広がる安堵があった。
ここは俺の場所だと、そう思える懐かしさと穏やかさがあったのに!

佐助は追い詰められる。

守るように抱きしめられたその優しさに、今まで幸村との間に感じなかった隔たりをその瞬間確かに感じたのだ。

予感は、あった。
幸村はやさしい男だから、自分を犠牲にしてでも誰かを守ろうとする。自分よりも弱いもの……子供や女性ならばなおさらだ。
自分が女性と知ったら、幸村は自分をあたりまえのように、弱いものとしてみて不必要なくらいに大事にしてくるんじゃないか、と。

それは一層、佐助をみじめにさせるのだ。

(俺は、女の子扱いされたいわけじゃないんだからね。旦那……?)

恐ろしいような寂しいような感情が声にならず、胸の中で渦巻く。

佐助の心中など知らず、幸村は佐助を抱きしめたまま謝る。

「ごめんな。佐助……」

謝罪というよりもそれはまるで告白のように甘く、響く。
耳朶に熱くからみつく声は、佐助を切迫させる。

自分たちの間で作られつつあった友情が砂で出来たの城のように脆く崩れ去っていくのを、佐助は幸村のうでのなかで感じていた……



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かきたいことがかけない!
自分の文章能力のなさに泣きです。

10.13 四既