放課後の理科室は、夕日に照らされ赤く染まっていた。
ぴちょん。
ぴちょん。
バルブをきちんと閉めずにいるせいか、蛇口から水滴が滴り、静かな教室に高く響かせる。
その音を覆うように発せられた声は、まだ、少し高い。
「あのさ、旦那……ホントにする気?」
まだ幼さの残る、"子供"を脱しきれていない少年の細く小さい体に、幸村の逞しい体が覆い被さる。
「……佐助、もう我慢出来ないんだ……」
佐助の細い足の付け根に押し付けられるのは、幸村の大きく膨らんだ熱。
スラックスを膨らませ、存在を見せ付けるそれに、佐助はごくりと唾を飲んだ。
(
痛くて死ぬ……絶対切れる)
徐々に体を封じこまれていく。逃げられぬように。
拒めぬように。
未だ未発達な体に、完成された大人の男の体。勝敗は考えずとも分かるもの。
佐助は無駄な抵抗も許されず、唯一自由にされている唇を動かし、助命を乞うた。
別に殺されるわけではないのだが、今の佐助の気持ちはそれに近いものであった。
「……いつもみたいにさ、口で勘弁してくれない?」
「それでは満足できない……佐助の中がいい……」
幸村は佐助の耳朶に舌をからめる。
「……あっ、旦那っだめっ」
さほど"行為"を経験したことがない幼い体は、与えられる艶やかな刺激に敏感だった。
「駄目ではない。もっと鳴け」
対する男は、幼い体に遠慮も容赦もない。
緊張と恐怖を目に見えて示しているのを、熱く注ぐ眼差しに映しているのかいないのか。
わかっていて見ようとしないか、わかっていて、それにより更に興奮しているのか。
恐らく後者であろう、と佐助は目星をつけた。
「……あんたに、良心っていうものはないのかよ」
哀れっぽく訴えてみれば、
「"もの"に働く良心は持ち合わせておらぬ」
すげなく冷たくかわされた。
「愛がない……」
すねてみれば、愉しげな笑みを向けられる。
「嘘をつけ。嫌というほど感じているくせに」
"
もの"は"もの"でも、佐助は宝物なのだ。
口説き文句のような台詞はさらりと吐き、幸村のゆびはするりと佐助のシャツへとのびた。
男の、長くしなやかな指が丁寧に白いシャツの釦を外す。
それだけの動きが佐助の目にはやけに色っぽく映り、目をそらした。
たったこれだけのことにすら耐えられぬとは。
(
忍にはなれねえなあ……)
なる気もないし、なる必要もない時代だが。
それでも、以前自分が血へどを吐き培ってきたものは一体なんなのだろうという、虚無がある。
幸村の指は、男のものであるが、昔のように武骨な印象はなかった。
槍を振るい、鍛えあげられたもの。
(
それが全部無駄になった。
俺たちが必死になって目指していたものは、一体なんなのだろう?)
「佐助」
言葉にならない、虚しさに近い黒い感情を持て余していたとき唐突に名を呼ばれた。
「何をしている。他のことを考えるな。俺だけを見よ」
真剣な目に見下ろされ、佐助はごめんと返す。
嫉妬深いこの主に逆らわないほうが身のためだと、身を持って知っている。
幸村の唇が佐助の唇に接近してきて、触れた。
舌が侵入してきて、佐助はたどたどしい動きで幸村のそれへと絡ませる。
互いの呼吸と、唾液を飲み込み、掬いきれなかったものが、接触した唇の隙間から溢れていった。
快感でか酸欠でか、佐助の意識が危うくなりかけて、ようやく唇が離れた。
「まだ慣れぬのか?」
「そりゃあ、半月じゃあね」
出会ったのは、四月。
そして、今もまだ、四月だ。
今年度、佐助が通う中学校に同じく幸村が赴任してきたのだ。
出会いは学校。
一目見つめあった瞬間に理解した。
自分にとって、彼が何であるかを。
「昔はお前が俺に教えてくれたのにな」
「昔は俺が年上だったもん」
「今は、俺が年上だな……だから、今度は俺が教えてやろう」
くつくつと暗い笑いを漏らす幸村に、佐助はため息を溢す。
「まだ中学生の子供に、こういうことしちゃう罪悪感はないの?」
ないな、としれっと応えられて佐助は頭を抱えたくなった。
親の顔を見てみたいとは、まさしくこのことであろう。
ちゅ……
幸村の唇が佐助の胸の先端に落ちて、佐助は身をよじらせた。
漏れる切ない吐息に、熱っぽくなる呼吸。
幼さの残る顔立ちに朱が混じる。
「……だんなっ……やっ」
「いや、じゃないだろ?」
幸村は舌でピンク色のものをぴちゃぴちゃと音をたてていじる。
「はっあぁん……」
じわじわとさいなまれ、佐助は熱を下足に集中させる。
うずくものに腰をくねらせ、ぐっと股の筋を引っ張るものに息を飲んだ。
佐助の手はするするとズボンのジッパーにのび、中途半端に脱いだ。トランクスに手を突っ込み、己を苦しめる元凶を柔らかく握る。
自分が与える微細な刺激にすらやるせなく鳴き、己の手で徐々に存在感を増していくものに、吐精をうながす。
「ふっううんっ」
己の下で淫らに崩れていく佐助を見つめる目は、発情期の雄を彷彿とさせる。
幸村は佐助の快楽を導くために、佐助の手のうえに、大きなそれを重ねた。
「はっうんっ……あっやぁっ……あっ……いくっいっ……でちゃっああんっ……
」
性急さに追い立てられ、幸村の手の動きに合わせるように佐助の呼吸が早くなる。
荒く胸を上下させ、犬のようにはっはっ、と息をつく。
がりり、と胸の突起をかじられ、佐助の体は跳ねた。
「……あああっっ!!」
そして、幸村の手によって絶頂まで連れていかれた高ぶりは、若い雄を奮いたたせ白濁を吐き出した。
「……あ、もうっ……やぁ……」
下着が盛大に濡れ、手が自分の精液によって粘着質のものが絡んでいるのがわかる。そして、手には、また立ち上がろうとする雄の感触を感じた。
「だ、だんなあ……」
「かわいいぞ、佐助。とてもかわいい」
肌に幸村の熱い息を感じた。
そんな言葉を聞きたいわけじゃない。
もう許してくれ。
「こわい……こわいよ。旦那……」
こんな感覚初めてだ。
自分が自分ではなくなってしまう。
"
俺"が拐われていく。
何処かへ行ってしまう。
そして、"ここ"に何が残るんだろう。
「もう……やっ!口でするから!口でするからゆるしてえ!」
"
この体"で深く人と交わるのは初めてだった。
今まで何回か幸村のものを口で満たしてやっていたが、それは自慰の延長のようなもので、こんな我を忘れるような感覚はなかった。
(
気持ち良すぎて死んでしまう……)
繋がると、前戯の比じゃあないのだ。
初めての性交。
忍であったときは修行の一貫と淡々と割りれることが出来たのに、この軟弱な体では恐ろしくてたまらない。
脅える佐助に、幸村はキスをする。かたかたと震える唇から安らぎを与えようと、小鳥がついばむようにやわらく肉を食んだ。
「だ、な……」
「怖くないから……」
幸村は穏やかな声で、説きふせる。
「愛してる……俺の全部を受けいれてくれ、佐助……」
白濁で少しべたついた手が、佐助の細身を抱き締めた。
震えを落ち着かせるために背を撫で、愛してると繰り返す。
「その声、やめて……変な気分になっちゃっ……」
「変な気分になっていいんだ。俺を感じて……」
幸村は低くささやき、佐助を片手で支え、膝の上に抱えあげた。
そして、空いた片手で佐助の秘孔をいじる。
「んっ……」
幸村の指が入り口にくいと肉を食い込ませた。
それだけで佐助はひくりと鳴き、固くなったものを幸村の腹に押し付ける。
それ以上に固く熱く、大きいものが佐助の股ぐらに布ごしにぐいぐいと押し付けられていて、その未知のものへの恐怖から、佐助は幸村の首に両腕をからませた。
「な、んかっつけてぇ……」
滑りをよくするものがないのは辛い。佐助の懇願は当たりまえのことであったが、幸村は首をふる。
「すまぬ……余計なものをつけたくないのだ
お前の肉だけ感じ取りたい」
次やるときは、きちんとつけるから。
今は俺の我が儘を聞いてくれ、と。
気休めにもならないことを囁いて、指をすすめる。
「……はぁっ」
「痛いか?」
労る問いに、佐助は小さく頷く。
「……堪えてくれ」
聞き届けてくれる気がないなら最初から訊かないでくれ、と熱に浮かされた頭の片隅で思った。
肉を強引にかきわけ、中に進んでくるそれから逃げようと腰が浮く。
幸村がそれを許すはずもなく、腰を掴み、指で奥を目指した。
「やっ、もっやぁ……」
じゅくじゅくと奥が期待するうずきを孕みだした。
そこに到達し、いじって欲しいという欲求と、そこを触って欲しくないという欲求がせめぎあう。
が、
結局は幸村によってそこをかきまわされるのだから、無駄な葛藤である。
「……っあ!」
佐助は小さく悲鳴をあげた。
ぶるりと腰がうごめき揺れる。
「ちょっだめっやあっやぁんっ!」
佐助の中で、"何か"が目覚めたような気がした。
目覚めてはいけないもの。
感じてはいけないもの。
それは、花にも似た色鮮やかな。
(
気を狂わす快楽)
狂気と快楽の開花をとどめようと必死に叫ぶが、幸村は蕾の奥をつつき、無理矢理に佐助の中のいやらしい花を咲かせる。
「ひあ、ひゃっああっ……!」
その花は甘い甘い蜜を溢すのだろうか?
その花は佐助の中で咲き、佐助の体中に蜜を届け、全身を狂わすのだろうか?
(
体中が蜜になり、貴方を誘い込み、貴方を狂わせて、また花を咲かす)
救いようのない循環(サイクル)
救われない循環(サイクル)
底無し沼にはまったように、落ちるだけ落ちて狂うだけ狂う。
枯渇するまで止まらない。
狂わす蜜は、枯渇することを知らない。
(
蜜は狂気。花は快楽)
「こわれちゃっ……!」
指が増やされ、肉を強引に広げられる。労りと慎重さをなくし、佐助の体を探るそれは幸村の限界が近いことを示していた。
(
これははじまりなんだ……)
終りのないはじまり。
えいえんにつづく狂気。