忍の職分でもなく、家臣の仕事でもなく、佐助は幸村と風呂に共に入る。
幸村に命じられたわけではなく、自分の意思でだ。
忍にあるまじき、思考の働きだと思うが、主の望みを言葉で伝えられる前に叶えるのが家臣の務めであるとするならば、佐助はそれを実行する。
幸村は、一見そうは見えないが、さみしがりやで、一人でいるのが嫌いである。
ぽつん、と風呂に一人で嫌いというのが言葉の端々から伝わってきたから、一緒に入って下さいませんか?と頼んだ。
「一緒に入りませんか?」と、幸村の寂しさを心配する上からの問いは少年の自尊心を傷つけると考えたから、あたかもこちらが望んでいるような言葉を選んだ。
幸村と出会ったばかりのとき。彼が十になったかならないかという頃の話である。
(それを後悔する日が来るなんてね)
当然のように一緒に風呂に入る習慣がついているから、今更別に風呂に入ろうとは言い出し憎い。
日に日に成長していく主を抱きたいと思ってしまうようになった。
日に焼けた浅黒い肌は、子供らしい柔らかさとは離れていたが、大人の男のような巌の固さがあるわけではない。
その、中間のような感触。
幸村の背中を流しながら、少年の感触にいちいち感想をこぼす己が、変人のようで笑えた。
つるりとよく滑る滑らかさが心地良いと思っているのだから、既に末期である。
主で、己の息子のように思っている少年に欲情しているのだから、救いようがない。
佐助は十七。幸村は十二である。
佐助の場合は性への欲求がが顕著な年であり、幸村はそんな佐助の欲を煽る、十二という年齢もあり少女のような小柄な体つきをしている。
主に手を出すなんて、法度もいいところだ。打ち首ものである。
で、あるからして、佐助はその忍にあるまじき思考を隠し、穏やかに笑うのである。
(俺がこの人を抱けるなんてことは一生ないだろう)
(その変わり、いっぱいいっぱい抱き締めよう)
(この腕で抱き締めて、ずっと守ろう。そんなときしか、思う存分触れられない……愛しい、愛しい俺のご主人さま……)
*****
少年は青年になり、青年は男になった。
昔からの習慣で、佐助は幸村と共に風呂に入り、背中を流す。
以前はそれだけで終わったこの時間は、それだけでは終わらなくなった。
閨を共にして以来、幸村の視線の質が変わった。
おかげで、佐助は居心地の悪い思いをする。尻や腰、何が楽しいのか乳首のあたりをねっとりと見つめ、幸村は下半身に熱を集中させる。
風呂場だから、それは一目で分かる。幸村はそれを恥じるどころか、佐助に欲情しているのを堂々と見せつけ、佐助に幸村自身を"口で洗え"と命じ(要するに奉仕だ)佐助に毎日くわえさせる。
……それは、まあいい。
性欲処理を手伝うのも仕事のうちだ。
「俺も、佐助のを洗ってやろう」
と、佐助のものを口にいれようとするのは正直やめて欲しかった。
何故、主が下賎な忍の逸物を口に含み奉仕すると言うのだ。
佐助は恐れ多いやら、後が怖いやらで、毎日固辞していた。
そんなことが日常になり、何時ものように、佐助が風呂場で幸村自身を口に含もうとした時だった。
「今日はいい」
幸村はさらりと言い、佐助を床に押し倒した。
茶色の瞳が何時になく情欲の炎が燃え盛り、佐助の体に吐き出すことを求めていた。
「体勢くらいは、選らばせてやる」
佐助を下敷にし、傲慢に笑む。
すでに肥大した幸村自身。まるで獣の舌舐めずりの唾液のように、とろとろと先走りの液をこぼし、佐助を食らうことを求めていた。
幸村の中で、佐助を抱くことが決定しているのを知り、佐助は仰向けだった姿勢から反転し、よつんばいになった。
尻を幸村の股間の位置にさしだすとくすくすと言う笑い声が落ちてきた。
佐助と関係を持つ前には考えられないくらい、卑猥な笑い方である。
「いい眺めだな。佐助」
「そうですか」
悔しまぎれに憎まれ口を叩く。
幸村は更に愉快そうに笑い、佐助の尻を撫でた。
****
前戯もなしに、幸村は佐助の中に濡らした指を入れた。
幸村自身の精液を絡めたぬるりとした指。それは佐助の蕾に僅かな痛みを与えた。しかし、その数が一本ということもあり、抵抗もなく入っていく。
一本、また一本と増えていく指。佐助の中をゆっくりとおしひろげ、受けいれる準備を作っていく。
動く指に僅かばかり翻弄される。
目隠しがないせいか、前回のように理性を奪われるほど感じない。
(何を急いでるんだか……)
半ば呆れた呟きを心中で呟き、幸村の指を体の中で感じていた。
「前のようにあえがないのか?」
幸村の怪訝な声が落ちてきた。
「……へた、なんっだよ。旦那は……」
上擦った声だったが、はっきりと幸村の耳に届く。ぴく、と彼の眉が動き、佐助の中に入れていた指を引き抜こうとする。
「あん……っ」
抜けていく瞬間に、性感帯をこすられ、思わず幸村の指を締め付けた。
予想しなかった快楽に佐助は思いもよらず声を発してしまった。
漏れた艶声に、幸村は気を良くしたのか、「ここが良いのか?」とそこばかりこする。
先程までの稚拙さが嘘のように、佐助をあえがせる。
そこ以外に、佐助の良いところを見付けだし、一番反応したところを重点的に責め始めた。
「あっっ……ふぅっ!」
佐助の細い体がびくりびくりと跳ね、そのたびに幸村の指を締め付ける。
「らんな……お願い、も、やめて……」
快楽のあまり、自分の意識が飛んでどうにかなってしまいそうだ。
佐助の息も絶え絶えの懇願。
「抜きたくても、お主の尻の穴が俺の指を掴んではなさん」
幸村はもう一度擦る。
「ひゃっ……!!」
くつくつと幸村は笑った。
「そろそろ離して貰えぬか……?」
佐助は羞恥のあまり真っ赤になった。
力を抜こうとするが、混乱しているせいか、幸村の指を逃すまいとしているかのように、蕾が思うようにならない。
「このままずっと、俺の指を食っていたいのか?佐助は淫乱だな」
幸村の言葉が佐助の胸を打つ。
佐助はまともにものが考えられなくなって、ろくにすがることも出来ない床に爪をひっかける。
あの優しい純粋な少年が自分にこのような羞恥を与える状況が理解できなくて、発作のように動悸が激しくなる。
混乱して、わけが分からなくなって、ぼろぼろと涙が溢れた。
とにかくこの状況から逃げたくて、自分が忍だという状況も忘れ、
「誰か、助けて……」
弱々しい今にもかき消えそうな声で助けを求めた。
「ああ、泣いてはならぬ佐助」
幸村は佐助の中の指の動きを止め、子供をあやすように、よしよしと背中を撫でる。
「はっ……はぁっ……」
苦しげな呼吸音。正常に呼吸が出来ず、佐助は不規則で荒い仕草で胸を上下させる。
幸村は心配する様子も見せず、ようやく力の抜けた蕾から指を抜き、そこに自身をあてがう。
「佐助……」
苦しむ佐助に、なんら助けにならない睦言のような甘い呼びかけ。
佐助の耳には届かず、うわ言のように助けてと言い続けている。
助けなど来ぬ、と幸村は耳元で囁き、ちゅく、と吸い付いた。
「幸村さまぁ……」
亀頭が佐助の入り口にあたる。
「助けて……」
自分を苦しめる男に、救いを求める滑稽さ。当の佐助は錯乱のあまりそれに気付いていない。
幸村の熱は最高潮に達した。
哀れで可愛い俺の佐助。
お前は何時だって俺しか見えていない。
俺に抱かれているのに、俺に助けを求めるのは、矛盾しているが、それで正しいのだ。
(常に、俺を求めろ佐助……!)
ここで他の男の名を呼ぼうものなら、そやつを殺してやる。
佐助の中にあるのは、何時だって自分ということを再確認し、幸村はその喜びを速く佐助に伝えたくなった。
満たされた支配欲、独占欲……そして生まれた狂暴な性欲。
佐助を慮りゆっくりと入れていた自身を、佐助の中に早急に突っ込む。
「あああっっっんっ!!」
佐助の口から悲鳴が溢れた。
もしかしたら誰か聞き付け、駆け付けてくるかもしれないが、それでも幸村は構わわなかった。
(佐助は俺だけのものなのだ……それを、皆、知ればいい)
みっちりとした壁に肉棒が包まれる。
佐助の中に全てをおさめさせると、どうしようもないほど安堵できる。
(俺は……男なのだ……)
屈服させる側であり、男の下に敷かれ、凌辱される側ではない。
「……佐助」
助けて、とうめくことも出来ず、くたりとしている。佐助はただぼろぼろと涙をながし、苦痛に耐えていた。
そんな佐助を見下しながら、幸村は問う。
「いずれ抱こうと思っていた子供に、凌辱される気分はどうだ?」
幸村は喉を震わせ笑う。
佐助はその囁きに徐々に理性を取り戻していき、完全に覚醒した瞬間、ひいっと悲鳴をあげた。
(なんで……)
かつて己が秘めていた想いを、幸村が知っているのだ………?
続く