男根を根幹から揺さぶり、欲情させ、たぎらせ、発露させる悲鳴が途切れ、もともと力の込もっていなかった体がくたりとなった。
気を失なってしまったことに、忌々しく舌打ちした。
「つまらないぞ、佐助」
咎める声は、届くはずもない。
幸村は興冷めした。
だが、体の方は熱を失わず、まだまだ出し足りぬと言うように、佐助の中で轟めいている。
気絶した体を揺さぶるのはつまらない。だが、体が熱ったまま抜いてやる気も起きない。
そのまま佐助の体をなぶり続けていると、佐助の意識が目覚める気配がした。
痛みと快楽でうう、とうめく。
さっさと起きろと言うように、動きを激しくすれば、愛らしい唇から漏れるのは、矯声混じりの悲鳴。
「ひいっやあああ!!」
悲鳴に、喜ぶが、何か聞き捨てならない言葉があった。
「やだ」とはどういうことだ?
はあはあと荒い呼吸をする佐助。
幸村は自身を突然、勢いよく抜く。
「ひいっっ!!」
内壁を強く擦られ、漏れたつのは、悲鳴とあえぎの中間のような声。
幸村は佐助に巻いた目隠しを乱暴に取ると、後ろから攻めていた体勢を変え、正面を向かせる。
虚ろな目には涙が浮かび、平な胸は荒く上下している。
唇は呼吸を繰り返し、唾液が溢れていた。
「何が嫌なのだ、佐助。言ってみろ?」
幸村は、努めて優しい声、優しい表情で言ったつもりだった。
しかし、佐助は口元をわななかせ、脅えを宿らせた瞳でひっと小さく叫ぶ。
目元は下がり、唇はつりあがり、見た目だけなら、確に幸村は笑んでいた。
しかし、瞳は幸村の本心を雄弁に物語る。
佐助に拒絶された怒りは、幸村が敵将と対峙するときの<鬼>の炎となって現れた。
「許して……も、無理……」
「何が無理なのだ?」
「これいじょ、されたら、おれ、こわれちまうよ……」
子供のように泣きじゃくる佐助に、幸村は、ふ、と笑みを落とした。
力の込もっていない体を抱き上げ、腕の中に閉じ込める。
背中を撫でてやりながら、幸村は口を開いた。
「昔のことを覚えているか?」
「昔、おぬしは、俺が泣くとこうやって腕の中に閉じ込め背中を撫でてくれたものだ……」
幸村の肩に顔を押し付け、涙で濡らす佐助。
うん、とも何も言えず、幸村の話を聞いていた。
「まだ、小さい子供の頃であったな……佐助の腕の中に、すっぽりとはまる……」
思い出すように、佐助に笑みを落とす。
「まるで、今の俺と佐助のように……」
佐助の、細い体を抱きしめた。
身長はさほど変わらないが、体の厚みと、細さが違う。幸村と佐助は肩幅がそもそも違う。体格に差が出るのも当然だ。
「ふふ、今はその逆だ。俺が佐助を慰めている……」
佐助の背中を撫でた。昔は見上げるほどあった背中。けれど今は、頼り気なさを感じる小さな背中。
庇護心と加虐心を同時に煽る。
「涙を見せるという行為は信頼の証だろう……俺は佐助にしか涙を見せなかった」
信頼していたのだぞ?
佐助の耳元に囁く。
昔も今も主従ということには変わりないのに、逆転したと感じる立場。
幸村は佐助の頭を撫でた。
「いい加減そろそろ泣き止め、佐助。流石の俺でも痺れが切れる」
泣いたまま抱かれるのは辛かろうと、幸村なりに譲歩しているのに。
それでも佐助は泣き止まない。
「……も、やめて……」
いつもの軽い調子を失った、哀れを誘う佐助の懇願。涙を流す顔も、目眩がするほど蠱惑的だ。
ぞくりと背筋を這うのは、それをむしゃぶり、喰らう快感を知っている期待故。
我慢が出来ぬ。
「何故?」
佐助を布団にゆっくりと倒す。
「あんたのが……おっきくて……」
ゆっくりと佐助の中に射れていく。
「く」
反りかえる佐助の背中。
「ああ……!!」
まるで刀と鞘のようにぴったりとあってするすると入っていく。
幸村が佐助の中に放った白濁の液が潤滑油がわりになり、摩擦の抵抗がほとんどない。
まるで佐助の蕾が、幸村自身を求めているように飲み込んでいく。
「だんな、おれこわれちまうよぅっっ!」
頭を貫く快感
脳天を揺さぶる衝撃は、痛みと、それを越える快感。
声高く佐助はあえぐ。
「嫌だと申す口で、何を喜んでいるのだ?佐助?」
緩やかに、動かしていく。
自分の中で少しずつ、動く速さを増す佐助は、ひいひいと悲鳴を漏らし、目を涙に濡らす。
その様は獣の交尾よりも淫らで幸村の雄をそそる。
ぐちょぐちょと濡れた音をたてる結合部。
「……佐助」
名を呼ばれた瞬間、再び訪れた身を食うばかりの衝撃。
またもほとばしる、女のように裏返った声。
(恥ずかしくて死にたい)
心の中で、ぽつりと呟いた後、思考が飛んだ。
*****
「佐助」
傍らで眠る忍を呼ぶが、起きる気配はない。
さらさらした髪の手触りを確かめながらなでる。
寝巻きからのぞく紅い痕が自分のつけたものだと思うと、なんだか恥ずかしい。
普段はどうにも色恋やそれらに疎い自分が、閨、となると、昼間「破廉恥」と騒ぎたて忌避しているのに変貌してしまう自分を幸村は初めて知った。
後から思い出すと顔から火が出るくらい恥ずかしい台詞と、酷く卑猥言葉を投げ掛けた。
(あああ!!俺は佐助になんということをしてしまったのだろう!!)
幸村は真っ赤な顔を抑えた。
(ああ……しかし)
佐助の穏やかな寝顔。性交とはかけ離れたかわいらしいさなのに、無防備なそれを見つめると、己の中で自然に生まれてくる喰らいつきたくなる欲望。それを忌避せず向きあえる自分がいた。
(大人になる……男になるというのは、こういうことなのか……)
今まで不埒だ破廉恥だと騒ぎたて、避けていた自分が馬鹿馬鹿しい。
吐きだしたい欲が生まれるのは、人の生理現象なのだから仕方ない。
人は人に堪えきれぬ欲をたたきつけるものなのだ。
(それは……当然のこと)
少しだけ、自分の中に、成長したものを見付けることが出来て、幸村は嬉しくなった。
(これも全て、某の身を案じてくれたお館さまや、俺に全てを任せてくれた佐助のおかげ)
佐助には、空が白むまで、無理をさせた。体を動かすのもつらいだろう。今日一日くらい休みをやっても罰は当たるまい。
(仕事があるといっていたな。才蔵にでもやらせるか)
「才蔵」
名を呼ぶと、障子戸の向こうに人影が現れた。
いつもより遅い気がしたのは、お館さまが気遣って、二人が閨にこもる間、人払いをさせていたからだろう。
(まあ、確かに。あのような佐助の声。人に聞かれたら佐助は死ぬと言い出しそうだ)
誇り高い男であるし。
(そしてあのような艶声。某以外の者に聞かせるのはもったいない)
「佐助の仕事をかわりに遂行して貰えぬか?佐助は某のせいで、まだ目覚めぬ」
「それは構いませんが」
美しい声が、その時珍しく主に対して断じる。
「佐助を起こしたほうがいいですよ」
「……?何故だ。疲れてぐっすり眠っておるのに」
「幸村さまは知らないでしょうが、男の精を体に残されるのは体にとって毒なのです。もともと男と交わるためにある体ではないのですから、当然と言えば当然ですが……
放っておくと、佐助は腹を下して苦しみますよ」
才蔵の言葉に、そうなのか、と慌て頷き、佐助の肩に手をかける。
「大丈夫。起きたよ……」
枕もとでああも会話されればね。
気だるそうに、重い手で肩にかけた手を払われる。
「あーもー。腰痛いし」
佐助は腕を支えにしながら起き上がる。
「さ、佐助……!」
膝立ちになった佐助を見つめ、幸村は顔を真っ赤にする。
幸村の放った白濁が、佐助が膝立ちしたはずみて、だらだらと溢れたのだ。
「きゃー見ないでー!」
「さ、佐助そのようにおなごのような悲鳴を聞くと某……」
取り残された才蔵の溜め息が、障子ごしに聞こえる。
「あーもー!旦那あっちいって!才蔵も仕事にいけ!」
ぎゃーぎゃーと初めての夜の余韻もへったくれもない、騒がしい朝は、こうして過ぎていった。