熱で浮かされる頭に何度となく、言葉が囁かれる。その言葉の意味は、よく分からない。
けれど、その囁きは佐助の耳に甘く優しく響き佐助の心を穏やかにさせた。
下脚から伝わる、中にある幸村の体温。熱くて熱くて。
けれど、そこにあるのが当然のようにずっとずっとそこにいる。
今更抜かれたら、違和感を感じてしまうんじゃないかってくらい受け入れていたから、そこは幸村の形を覚えて彼だけを受け入れる器に作り変えられていく気がした。
「だんな……」
佐助はぼんやりとした目で、佐助を見つめる幸村に微笑みかけた。
****
佐助は最早、幸村に風呂場で強姦された頃の記憶からあやふやになっていた。幸村は、そうなるように、熱で苦しむ佐助をうがち続けた。
行為の最中は半ば狂わされた佐助は、熱も冷め理性が戻ったころ、都合の悪いことは全て忘れているだろう。
混濁した脳は全てを熱に苦しんでいるときに見た悪い夢と処理し、佐助の中に影を残さないはずだ。
熱にうなされている最中、ずっと淫らに自分と交わっていたことだけを覚えていればいい。
自分が佐助から抜いた瞬間から、佐助の体は欠落を覚え自分の雄をもとめればいい。
幸村が欲しくてたまらないという淫乱な体に。幸村との結合でしか安堵出来ない体に。
幸村は佐助の体を佐助が熱にうなされる短い期間で変貌させたとおもう。
そしてもうひとつ。
幸村には面白くて仕方ないことがあった。
佐助の体が女のような丸みを徐々におびていくのだ。
才蔵が言うには、人間の体には、女と男を分ける物質が分泌され、女らしいまるいやわらかな体つきや、男らしいかたい体つきになるらしい。
二つの物質は、人間ならば男女関係なく持っていて、男には男らしくなるための物質が、女には女らしくなるための物質が、それぞれ多く体内で分泌されるとのことだ。
佐助の中にある、女らしい体になるための物質が彼の中で多大に分泌されて、佐助の体は女に近付いている、と――
難しい話で幸村にはよく理解出来なかったが、幸村の発した言葉で、"印象"だけでなく"体"そのものが女になっていくことだけは理解できた。
見た目の体つきが"女"に近付くだけであって、子供を産めるようになるわけではない。才蔵は言葉を足したが、それこそ幸村の望むところ。
妊娠なんてすれば佐助と行為が出来なくなるし、佐助の中に自分以外のものがいる、そんなこと絶対に許せない。
幸村は、膨らみはじめた佐助のやわらかな胸肉をもんだ。もんでやれば、女のように大きくなるのだろうか?
小さくてもかわいらしいが、佐助の豊満な胸をいじりたおしてやりたいとも思う。
他の女の胸には興味は沸かないが、佐助の乳房になら興奮するだろうなあ、と今から考えて雄を固くした。
「ん……く……」
「ああ、すまぬなあ」
幸村はくすくすと笑みをこぼした。中で膨張してしまい、佐助は変化した圧迫した質量に眉をしかめた。
幸村は、それでもぬかない。そして、佐助の中で暴れてやりたいのをこらえ、じっと佐助に自分という存在をを与え続ける。
佐助に無理ばかり強いる幸村のせいで、下がる熱も下がらないと責められ、だったらせめてというように、幸村は佐助に自身を入れ続ける。
異常だ。と誰かになじられようと、幸村はやめる気はない。
一週間くらいの政務、海野が行ってくれるだろうし、自分の影の小助が、自分の変わりに侍を指揮しているだろうし。
たまにはこんな、乱れた休暇をもらってもいいだろう?
幸村は佐助に問うた。
耳をくすぐるように囁いたから、佐助はくすぐったいのかくすくすと笑った。
その所作があまりにも可憐で、愛しく、
「愛している……」
と素直な気持ちをのべた。
耳をいじったわけでもないのに、佐助はくすぐったそうに身じろぎして、幼子のように無垢で満ちたりた笑顔を浮かべた。
「おれも……ゆきむらさまのことあいしてるよ……」
それだけ言うと、すう、と佐助は眠りに落ちてしまった。
佐助の言葉に、幸村の雄が、(くわせろ)と騒いだ。
「佐助……そう、俺を煽るな……」
我慢出来なくなるではないか……
佐助の気持ちを聞いたのは初めてだった。
ずっと、罪悪感や下僕だから幸村に抱かれているのかと思っていた。
(違うのだな……)
「あいしている」と――
この耳は確かに聞いたからな。佐助。
幸村の中で、渇いていたものが癒された気がした。
幸村は、体だけでなく、佐助の心も欲しかったのだ。
人と人との親愛の情ではなく、恋人のような深い愛情が。
それをようやく手にいれた確証を得た幸村は、その喜びを示すように勃起した春棒で佐助の中をかきまわし始めた。
「ふ……あ……」
「佐助……愛してる……」
愛しすぎて、愛しすぎて、もう手放せない。
俺をいっぱい感じてくれ。
お前をたくさん感じさせてくれ。
幸村は佐助の腰をあげさせ、後ろから攻めた。
佐助の尻に容赦なく幸村の腰が叩きつけられ、皮膚がぶつかるたびにびちびちと音がなる。
「あ……んっ……やんっああ……やっはあっっ」
淫欲のままに鳴くこの"女"の姿は、戦場で見事に吹き抜ける風の忍とかけはなれ、面影もない。
"彼女"は褥で咲き誇る、花だ。
花弁(あし)を広げ、密(せいえき)を溢す、ひとの心をつかんでやまない花なのだ。
さすれば俺は、花を咲かすための、水や大地か。
だってそうだろう?佐助。
お前はもう、俺の与える熱なしでは、おられぬだろう?
幸村は、自分の放つものが佐助を生かすのだ、という馬鹿げた妄想に陶酔する。
けれど、佐助の体は幸村の馬鹿げた妄想を顕著に叶える体に、ゆっくりとだが近付いているのだ。
幸村は佐助の中に、精液を放った。
「心地よかろう?」
幸村の下で、熱と快感に苦しむ佐助の下腹をなでた。
また出してやるからな、と幸村は穏やかに囁いた。
****
佐助に熱をたくさん熱をそそいだあと、それを掻きだした。
入れては、出され、入れては、出され。
そんなことが繰り返される日が何日か続き、それでも佐助の体は回復していった。
幸村も佐助にべったりとくっつき、佐助に常に性行為を求めることをやめた。
仕事や鍛練をした後、佐助を見舞うだけとなった。
まだ完全には熱が引かず、佐助は布団に伏せっている。
佐助は仕事にそろそろ復帰したいと言うのだが、幸村がそれをゆるさなかった。
熱が完璧に下がるまで、布団の中の住人となった佐助は、幸村がいない昼の間、悶々と自分の体の変化について悩んでいた。
意識がはっきりしてくると、肉がついてきた尻だとか胸とかが気になってくる。体の線が、男性らしい鋭いものから、女性らしい柔らかさに変化している。
男性の証さえ隠せば、長身の女に見えるのではないだろうか?
直接触れる気が起きず、着物の上からぺたぺたと胸に触れる。その感触はまさに女性のもつ乳房の肉の感触で。
(気持ち悪い……)
佐助は落ち込んだ。
幸村と同じ説明を受けたけれど、納得いかない。
男でも女でもない、気色悪い体だ。
その体を愛する幸村の気もしれない。
「旦那は、なんで、こんな俺を抱くんだろ……?」
思いつくままに口にし、佐助は瞬間、しまったと舌打ちした。
(だ、だめ……)
己の細い体をぎゅうと抱き絞める。
幸村のことを……幸村に抱かれていたことを思い出すと、体に穴でも開けられたような喪失感が芽生える。
空虚が生まれ、同時に手なずけられない熱が生まれる。
空虚は飢えだ。
陰門がびくびくと収縮を繰り返し、発作でも起きたように佐助の体が跳ねた。
幸村のうがつ肉と熱を欲してやまない、飢え。
熱は勝手に佐助の中心に集まる。何もしていないのに佐助の雄は立ちあがり、白い液を吹き出す。
自分のものではないような体の熱に佐助はいやいやと首を振って一人なく。体は勝手に射精を繰り返す。
「ひゃ……なんなのお……これ……」
擦ってもいない。触ってもいない。なのにそこは幾度も佐助の体を痙攣させて熱を吐き出す。
下の熱に全てが翻弄される。
「やだ、やだ……ああん!!」
あえぎを発し、佐助は放出を続けるそこを必死に抑える。けれど今度は放出を抑えつけられる苦痛が、佐助の体を蝕んだ。
「ふ……ん……」
射精という性の発露により、蕾が異様なほど幸村を求めはじめる。
あるはずのものがない。前立腺を擽られる快感と中にあって当たり前の圧迫感がない。
それだけで佐助の体は、淫らな狂い方をする。
「あっだめ……やだってばあ……」
自分の体ではないようだ。"幸村によって作られた体"は、幸村にしか鎮めることが出来ない。
佐助は陰茎を握り、理性を置き去りにして狂い行く体の熱に耐える。
欲しくてやまない。
幸村の熱が欲しくて、幸村の熱がないことに耐えられなくて、"体が狂う"。
佐助の意思を無視した射精は、体の悲鳴。
収縮し、幸村の熱を求める蕾の悲鳴を代弁するように、枯渇するまで叫び続ける。
「たす、けて……たすけてだんなあ……」
狂った体の狂気に引きずられて、精神までもが狂いそう。
「どうしたのだ?佐助?」
仕事を終わらせたのか、様子でも見に来たのか、幸村がゆっくりと現れた。
乱れる佐助を愉快そうに眺める。
佐助は恥ずかしい姿を見られても、羞恥を覚える暇がなかった。
「おねがい……だんなあ」
幸村に手をのばすために、佐助は己の陰茎から手をはなす。瞬間、塞き止めるものがなくなり、ぶしゅっうと高く液を飛ばし解放される。
腰を揺さぶる衝撃のような勢いに、佐助はああ!と叫んだ。
手でおさえる力を全身から奪うほど、佐助の雄は液をはなつ。幾度も射精したせいで、それはほとんど透明に近かった。
求めてやまなかった幸村を目の前にしているせいで、蕾が激しくうずいた。
「だいて、だいて……!!苦しくてしんじゃう!!」
佐助は幸村に懇願する。
青年は仕方ないなあ、と呟きながら座る。
ふふ、と幸村は笑った。
「俺は座っておるから、好きなだけいたすがよい」
佐助をその言葉に泣きそうな表情になった。くしゃりと顔全体を歪めた。
体は耐えず幸村を求めている。早く"中"に入れてやらないと、自分が自分以外のものになってしまいそうだ。
佐助は躊躇いながら幸村の下衣から逸物を取り出した。
萎えているそれを、佐助は必死にしゃぶりつく。体の中で暴れるあれが速く欲しい。
ぴちゃぴちゃと水音をたてて舌をめちゃくちゃに動かす。口内に全ておさまりきらないそれをまんべんなく刺激するために、唇の位置を動かし肉棒を立たせる。
「いぃ……ぞう。佐助……ぇ」
幸村は切なく息を吐き、佐助の髪を鷲掴みにした。
佐助は口の中で一度幸村自身を達してやるほど余裕がなく、ならしもしない蕾をあてがう。飢えて飢えて、気が狂う。
「はあう!」
痛みや快楽より"安堵"が優った。
欠落をようやく満たせた安堵に佐助は満足の涙を流した。
了
了