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「うらやましい……」
逞しい背中を見てうっとりと呟いた。甘いお菓子を羨ましそうに眺める子供のような顔だ。
その視線を受けて幸村は顔を赤くした。恋におちた乙女のように甘いものではなく、もの欲しげな視線であったとしても、好きな女の子に見つめられたら、健全な十六歳の男子なら、よっぽど自分の本音を隠すのがうまいものでない限り、誰しも照れてしまうものだろう。
見せているのが背中でよかった。正面を向いていたら、この顔の赤さを訝られたに違いない。
ほっと息をつき、幸村はにやにやと不気味に笑みそうになる唇を引き締める。
鎮まれ鎮まれ。
念仏のように唱えて、幸村はやけに熱い顔の熱を引かせようとする。
それでも顔が赤いことを指摘されたら、夏の暑さを原因と説明すればいい。
幸村はくるりと振り返った。
「ん? どうした佐助?」
「ん〜旦那って背が高いし、体つきがっしりしてるから、うらやましいなあ、って」
「そうか? でも、佐助はかわいくていいじゃないか」
「男の子にかわいらしさなんていらないでしょ」
「でも、佐助は女の子だろう」
「俺は、男に生まれたかったの」
「でも佐助は女の子なんだから……れ、っいらい!」
佐助……佐夜は幸村の頬を掴むと思いきりひっぱった。まるで餅みたいにのびるね。さすがお餅好き。と全く関係のないことを考えながら、むすっとした口調で、ぎろりと睨みつける。
「うるさい」
眉の根が寄り、皺が出来ている。頬でも膨らませて怒りを示せばかわいらしいのだが、この顔は凶悪そのものであった。
佐夜が掴んでいた手を離すと、痛い痛いと呟いて、幸村は頬をさする。半眼でそれを眺めて、いわなくてもいいことを行ったお仕置きだからね、と顔を背けた。
まったく、人生とは思うようにいかない。
なんで俺はこんな体つきなんだろう、と自分のほっそりとした頼りない姿にため息をつく。
努力って報われないものだな。ひとりごちると寂しさがこみ上げてくる。
背が伸びるようにたくさん牛乳を飲んだ。
筋肉がつくようにたくさん筋トレをした。
それなのにどうだろう。
男子に比べるまでもなく、身長は低いし、筋肉は付かずに全体的に頼りない細いままだし。
顔立ちなんて、やっぱり整形しないと変わらないのだろうな……父親に似ているけれど、どこからどう見たって、女の子にしか見えない顔立ち。少しきつい印象があるね、とたまにひとから言われるけれど、それでも男の子らしいとは言われたことがない。
それに比べて幼馴染の幸村はどうだろう。
幸村は男の子なんだから当たり前といえば当たり前なのだけれど。
剣道部で鍛えた体は逞しさがある。きりっと通った鼻筋は涼やかな凛々しさがある。
普段は子犬みたいに甘えきった目の色をしているけれど、真面目になると見るものをどきりとさせるくらい、触れがたい綺麗な光を見せる。
背が高くて、肩幅があって……幸村に対しうらやましいところを上げたらきりがない。
佐夜は悔しくなって、幸村の頬をふたたび前置きなくつまんだ。
「ひゃふけえ。いらい……」
涙目で訴える幸村にべえっと舌を出してみせる。
知るもんか。
俺のほしいもの全て持ってるんだからこのくらいの八つ当たりうけいれろよな!
八つ当たりとは自覚しているらしい。
幸村も佐夜の八つ当たりだとわかっているので、大人しいものだ。
やめさせようとすれば力ずくで、すぐに押さえつけられるのに、されるがままになっている。
これが惚れた弱みというものなのだろう。
佐助の気がすむまでだいたい頬をつねられる状態が続くわけだが、今日はすぐに終わった。
ふたりのじゃれあいを止めるように、授業の開始を告げる予鈴が鳴ったからだ。
「旦那」
にっこりと佐助は笑う。
「今日、授業が終わったら俺の分のパンも買ってきてね」
もちろんおごりでね。
その無情な宣告に、幸村はがっくりと肩を落とした。
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四既