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前田先生の教える歴史の授業は、生徒からも定評がある。
本人の気さくなとっつきやすい人柄がまず生徒に受け入れられ、授業の内容も教科書を読むだけではなく、歴史の教科書にはのっていない、少しばかばかしい歴史の裏話などで、生徒の笑いを誘う。
談笑を交えた授業に、幸村もまた横隔膜を震わせ、声を出して笑った。
佐夜の笑い声も同時に聞こえてきて、その度に幸村は心臓を高鳴らせた。
幸村は授業を受けながら後ろの席に座る佐夜を気にしていた。
先ほどのように強い視線を感じない。
真面目に授業を受けているからだろう。
それを少し寂しく思いながら、幸村は黒板の内容をノートにとる。佐夜の全てを独占したいと思うのは我が侭であるとわかっていても、胸を焦がすその欲求は冷めるどころか増長する。
佐夜に見つめられているのは、歯がゆく、嬉しい。そして、佐夜が自分以外のものを見つめていると、悔しくてこちらをみろと顔を掴んででも自分を見せたくなる。
だから、佐夜に、それが恋情のこもるものではないとしても、背中を見つめられるのが嬉しい。
自分が欲しいものの憧れだとしても、いつかその憧憬が淡い恋心に変わってくれやしないかと都合のいいことばかり思い浮かべる。
幸村は佐夜を好いている。それは誰の目から見ても明らかで、気付いていないのは本人の佐夜くらいだ。
なにせ彼女は男の子に恋をするよりも、自分が男の子のようになることに夢中ときている。
佐夜にとって男の子はいつか成りたい自分の姿の憧れの対象であっても、恋愛の対象ではないのだ。
そんな佐助の心をいつか変えたいと幸村は野望を抱いていた。
その憧れを淡い恋心にして、自分を好きになってもらいたい。
そのために、佐夜の理想の姿となるべく日夜努力を欠かさないのだ。
佐夜があこがれる今の幸村の姿は、幸村が男だから手に入れたわけではない。
幸村が佐夜の視線を独占したい一心で手にいれた努力の証なのである。
幸村は今でも
“佐助”との出会いを今でもはっきりと覚えている。
小学校の入学式だった。
尿学生男女の席順などこだわりがなく、出席番号順に座らされる。
佐夜は同じ髪の色をした父親に手を引かれ、きっちりと折り目まで見える制服を着ていた。
スカートではなくズボンで、ひとめ見たとき女の子か男の子かなんて区別が付かなかった。
そのときは身長に差などなかった。
同じくらいの背で、髪も同じくらいの長さ。
今よりも少しだけ大きな目が好奇心旺盛にくるくると動いて、橙色の髪と同じ、色の薄い瞳が興味深そうに幸村の姿を捉えた。
あ、かわいい。
ちいさな鼻と、学校を囲むように咲く、桜の花のように綺麗な唇。やわらかな輪郭線と、それをふわりと包む橙色の癖っ毛。
幸村は始めてあった佐夜に顔が赤くなるのを感じた。
ずぼんをはいているのも気にしなかった。
自分をじっと見つめてくる瞳にまではそんなことは些細なものだった。
くすくすと目の前の少女は笑った。
なにがおかしいのだろう。
幸村が首を傾げると小さな人差し指をこちらにむけた。性格には、制服を指さしたのだ。
「制服ぐちゃぐちゃだね」
落ち着きがなくそわそわしている幸村は、両親の叱責が飛んでも学校に来るまでに腕白ぶりを発揮し、買ったばかりの制服を汚した。
その指摘に幸村は羞恥を感じた。制服がどれだけ汚れていようと、しわだらけであろうと今まで全く気にならなかったのに、目の前に立つ同じ年の子供に笑われるだけでそれが途方もなく恥ずかしいものに思えた。
こら、と佐夜の父親が無遠慮な言葉を嗜める。幸村の母親も息子に対する言動にまだ七歳になるかならないかという幼い子供の言動に、あまりいい顔はしていない。愛想でお気になさらずとか事実ですからとか笑うけれど、幸村の手を握るそれに、異様なほど力がこもっていた。
建前だらけの暗いよどんだ空気を払うように彼女はにっこりと笑った。
「でもね。俺も制服汚しちゃうつもり。入学式までは綺麗にしてろって言われたけど、やっぱりたくさん遊びたいもん」
佐夜は空いた掌を差し出した。
「ねえ。入学式が終わったら、一緒に遊ぼうよ」
少女の笑顔が眩しかった。全身が心臓になったように、うるさいくらいに鼓動が鳴り響く。胸が何かでいっぱいになって、呼吸が苦しかった。
幸村は差し出された手を躊躇わず握り返した。
その手は、とてもやわらかかった。
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あとは慶次が出てぐたらぐたらなる予定。飽きた。(飽きるな)
四既