贈り物

オルゴールから聞こえてくる音楽に耳をすませて、佐助は目を閉じた。
こぼれおちる音は名工の硝子細工のように繊細で、奏でる音はおだやかな海のように優しい。
緩やかな波に体を預けているような安らぎを得る。オルゴールの螺子がきれてぴたりと音がとまると、佐助は満足そうな笑みを浮かべた。

「なかなかいいもんじゃん」

佐助がそういうと、慶次は良かったと笑う。

「佐助の耳は確かだからな」

慶次は無骨な手には不似合いな緻密で美しい細工をされたオルゴールを
手に取り、白い箱に戻す。新しくだした製法紙にその箱を丁寧に包み、淡い赤にリボンで結んだ。
慶次のてつきを眺めながら、なんでも絵になる男だな、と佐助は心中で思う。
これを元親や幸村が行ったら、そのこまごまとした作業の不似合いさに笑いが込みあげてきそうだ。慶次はほかのものには存在感があるというか、元が派手だからリボンやらかわいらしい模様の包装紙を持っても、違和感がないというか。佐助は思考がどんどん脱線していることに気付き、まあそれはいい、と自分のなかで折り合いをつける。
そのときには慶次はオルゴールを包み終わり、足の長い丸テーブルに丁寧な手つきで置いていた。

「お二人はきっとよろこんでくれるよ。そのオルゴールのよさとかよりもさ、慶次のその気持ちにさ」

佐助の言葉に、慶次ははにかんでみせた。
滅多に見せないくしゃっとした子供のような笑みに佐助もつられて頬がゆるむ。
それに流されて、伝家の宝刀とまで一部で言われている佐助の言葉の刃も思うように発揮されない。
オルゴールの暖かな音がまだ耳の奥に残っているようで、佐助はその残響を聞きながら、慶次を見つめる。
恋だなんだと語るときの慶次よりも、こういう表情の彼のほうが好きかもしれない。
ぼんやりと思い、佐助は自分の考えに再びおいおいと首を振った。

「どうした?」

慶次がそれに不思議そうに首をかしげる。

「なんでもない」

佐助は額を押さえてうめく。恥ずかしさに顔から火が出そうだ。まともに慶次の顔を見られない。

(普通、男を好きって思うか?)

自分の言葉に佐助は言い訳する。いや、俺は慶次の表情が好きなのであって、慶次が好きなわけじゃない。いや、だからといって慶次が嫌いなわけじゃ……

(まて、まて、俺……!)

考えが不穏な方向に行きそうになって、佐助は危機感を覚え急停止した。
なんだか子供のころの初恋の甘酸っぱいような感覚が己の中で生まれそうになり、佐助はそれに急いで封をする。

開けてはならないパンドラの箱とやらを覗き見してすぐに閉じたような気分である。

慶次は挙動があやしい佐助を心配そうに見つめる。佐助は話題をそらすように慶次に問うた。

「あ、あのさ、そのオルゴールの音楽ってなんていうタイトルなの?」

佐助の態度に不審を隠せぬまま、慶次はああ、とためらいがちに答える。

「異国のものでよく分からないんだけどさ、ひとに愛をつげるための音楽らしいぜ」

慶次のその言葉に、佐助は再び頭を抱えた。

他意はないことはわかってる。
自分がきいたから答えたのはわかっている。
けれど、佐助は慶次を責めずにはいられない。

(なんでこのタイミングでそんなこというんだ……)

その音楽を聴かされた俺は、まるであんたに愛の告白を受けたみたいじゃないか。



唐突に、気付いてしまった恋心。
多分、ずっとまえから慶次が好きだった。それに気付かなかったけれど、ぼうっとしていたらその言葉がぽんとでてきて戸惑う佐助。

それにしても思い込みがはげいしいな、佐助。
そのオルゴールを贈る相手は自分ではないとわかっていても、佐助は慶次にどきどきしてしまう。

佐助が主に口が悪い相手→いわずもがな幸村。元親。政宗。元就。
政宗とは喧嘩友達。元就と会うと周囲にブリザードが吹き荒れる。

2007.06.30 四既