挙句の果てに
荒々しくて。
呼吸が奪われる。
夢中になって頭がくらくらするくらいに。
最高の接吻(キス)だ。
与えられるだけじゃなくて自分から求めると、もっと気持ちいいんだ。
深い口付けは相手に負けまいとただただ激しさを増すばかり。
その快楽に力を失い、されるがままになったのは佐助。搾取しあった唇を一方的に幸村が離した。
それを惜しむように佐助の目がうるみ、幸村の濡れた唇を視線が追う。
「良かったか?」
居気高な問いに頷きそうになって、佐助は首を振った。
「素直じゃない」
くつくつと喉を鳴らす幸村の下で、佐助は吐息を熱くしながらもがく。
羞恥で頬は赤く染まり、それが余計佐助を色めかせ、幸村を煽った。
「少佐は本当に、素直じゃない……」
可愛い……でもだからこそ許せませんね……肉薄な唇が不明瞭にぶつぶつと呟き、瞳の奥を切ない愛憎で揺らめかせた。
幸村の空いた手は佐助の軍服をゆっくりと脱がしていく。存在を主張する佐助自身を無視するのは、さらに佐助を追い詰めるための策略であろうか……
「んっ……」
指の腹で乳首をこねられ、上気した息が上がる。
触れられた瞬間に体中に弾けて伝わる、快楽という名の麻薬。
やめられない、甘い毒だ。
「気持ちいい……だろ?」
反応を見ればわかるであろうに、あえて尋ねてくるのは、"素直になれ"ということなのだろうか。しかしそれに素直に答える佐助ではない。
佐助は目に涙を溜めて首を振る。本当は、もっと手荒く扱って欲しいくらいに気持ちいいのに。
「じゃあ、これは?」
敏感な場所に爪をたてたれ強く刺激される。漏れる息は幸村を誘うようなどろりとした触手をのばし、幸村の肌に絡みつく。
「……んっぁっあ……っ」
「どう?」
最早、意地だった。佐助は首を振る。決して、屈しない。
幸村は口元に笑みを刻み、首筋に吸いつく。
「ひ、ぁあ……」
ぞわり。肌を這い、佐助を鳴かせる、もの。
幸村の舌がゆっくりと首筋をなぞり、頬骨を撫でる。ぞわぞわと擽ったさに似た、それよりも堪えることの非常に困難な、快楽という試練が、迫りくる。
「やっそこやあっっ」
佐助はじたばたと暴れた。股が張り、劣情が佐助の下半を支配する。
そこに触れてすぐにでも貯まる熱を解放したいのに、両手を抑えこまれて叶わない。
「っやぁったいさっやだっ! あ、あ、あ」
「ん……嫌だと言われても、俺は楽しいので続けますよ」
入らぬ囁きで耳朶をなぶる。幸村の吐息にすら感じて、佐助は小さく悲鳴をあげた。
「可愛い……少佐」
少佐はこうされるの、もっと好きでしょう?囁きざまに耳の穴に舌をいれる。
「ひゃっ違うっやめっ……!」
哀願に応えてか舌が抜けても、相変わらず耳ばかり攻められる。
「少佐、達したいですか?」
意地悪に問う声に当たり前だと叫びそうになる。
それに頷けるわけないのをわかっていて問うんだ。
佐助は悔しくて苦しくて涙が流れた。
「だ……れがっんっ」
頷くものか。
「意地っ張り」
ふっと息を耳にふきこみ、佐助はそれに跳ねた。
「素直なのは体だけですね。もっと俺のいうことを聞けば優しくしてあげるのに」
ごうがんな言葉とともに幸村は佐助の下着ごと下衣を脱がす。空気に晒された屹立した佐助の雄に幸村は手をそわせる。その刺激だけで佐助は達しそうにな
るが、幸村は先端をつまむことでそれを封じた。
「……っぁあんっっ」
「出したいでしょう?」
問うな。頷くなんて思うな。俺はまだそこまで落ちぶれていない。
鈴口をぐりぐりと指で刺激する。それだけで身も切るような射精感がこみあがってくる。
ぐずぐずとくすぶる火に油を注いでたきつけるみたいに体中が一気に熱くなった。
「『俺のミルクを飲んでください』って言って」
根本にゆっくり指が這う。柔らかくもみしだくようにして、佐助自身を愛撫した。
「これ以上ないってくらい気持ちよくさせてあげますよ」
相変わらずの上からの言葉。
相変わらずの佐助の抵抗。
幸村は佐助の強い拒絶を馬鹿な方だと苦笑い、出口を封じたまま愛撫を続けた。
「あ、ふぅっ……」
「素直に俺の言うことを聞けば、逃げ道だって作ってあげるのに」
幸村の頭が耳元から移動する。両腕を掴んでいた手が大腿をおさえこみ、佐助の足の間にある男の主張をちろと舌先でなぜた。
「被害者だ、と思いこませる救いをあげるのに」
根本からゆっくりと舌でなぶられる。睾丸や裏筋余すことなく施される拷問のような愛撫。
「好きなだけ気持ちよくさせてあげるのに」
佐助自身を口でくわえこむと、塞き止めていた手を離した。
「あっ……!」
佐助の体が痙攣した。体中の熱がほとばしるように体外に放出される。
その勢いに佐助は放心する。
快楽というすぎた刺激に自身が崩壊してしまうような錯覚が最後の記憶。強制的に意識が遮断され佐助は目を閉じた。
****
目を見開くとそこは自分の仕事場ではなく、薄い沙で覆われた天蓋付きの寝台。
このような悪趣味な寝床を持っている男など一人しか思いつかず、そしてなによりその本人が傍らにいるのだから、誰がここに自分を運んできたのか、明白である。
「目が覚めましたか?」
穏やかに問いかける声。わかっていて確認するのは最早この男の習慣なのだろう。
気絶している間に男の家まで運ばれるのは慣れたくもないが慣れてしまった。
腹立たしいのでもう一度寝てやろうかと薄い毛布を頭から被る。
一度冷めた熱が抱きしめてくる幸村の腕の強さと、密着しあう素肌からじわじわとこみあげてくるが佐助は無理矢理知らぬふりをした。
例え何処がうずこうと、腹腔奥深くから迫りあがる欲求に顔が赤くなろうと、佐助は決して自分から求めようとしない。
それをからかうように幸村は佐助のまろやかな双丘に手をのばし、その中心に秘めやかに綻ばせている蕾に触れた。
びくりと佐助の体が跳ね、跳ねるだけで逃げようとはせずやめろとうめく。抵抗の言葉の弱さの裏に、うるんだ瞳が佐助の本音を物語っていることを幸村は知っている。
もっと触ってほしい、と。
貴方は訴えているのでしょう?
数えきれない問いはその回数分偽りの答えで返される。
ぐつぐつと煮えたぎる胸の内で、問う。
返ってくる見栄だけの言葉など関係ない。
佐助は自分を欲している。
その事実だけで幸村の気を高ぶらせるには十分すぎた。
(嗚呼、だからこそ許せないのだ)
佐助の体は幸村の与える刺激に幸村の思うように反応し、幸村を悦ばせる。
凌辱と恥辱こそ佐助が求めるもので優しい愛撫よりも乱暴な行為のほうが、佐助の体はとても悦び甘い悲鳴をあげる。
(こんなにも俺は貴方という人を知り尽して望むものを与えているというのに)
男を知った体は幸村が驚くくらいに貪欲で淫乱だ。
誰に対してでも簡単に足を開いて雄を受けいれる。
淫らで醜悪な佐助の本性とでもいうべき顔は自分だけが知っていればいいのに佐
助は呆気ないほど簡単に自分以外の男に見せた。
そういう噂は影であっという間に広がる。
顔を見るのも不快になる男が誇らしげに佐助を襲ったときの情景を語っていたが
真実は違うのだろう。
佐助がその艶で誘ったのだろう。
男から襲うように。
満たされない体を満たすために。
肌をこれだけあわせていれば、見たい見たくもないに関わらず、相手の本性というのが透けて見える。
佐助はプライドが高くて、自分の中に潜む薄暗いいんとんな欲求を嫌悪していた。
それを無視していた佐助に、自覚させたのは幸村だ。
初めて佐助を抱いたとき、最初のうちは抵抗を見せていた佐助はやがて快楽に身をまかせ自ら腰をいやらしく振っていた。
見るのも汚らわしい畜生にも劣るような……そんな行為が佐助は大好きなのだ。
それを証明するかのような佐助のあえぎを聞く。そのたびに、幸村の体には歓喜が生まれた。
佐助すら知らぬ、一面を暴き出し佐助の全てを知っていく。それはまるごと佐助を独占していく悦楽に幸村を染めあげ加熱させた。
それにより佐助の矜恃が傷つこうと自我を緩やかに崩壊させていこうと気にもかけなかった。
目先の快楽と己の欲求を満たしていくことに夢中になって、それ以外が目に入らなかったのだ。
その結果が酷く歪つな、ひずみのような今の佐助を生んだ。
危うい均衡を保っているのだとわかっていても、男に足を開いたという嫉妬が炎が狂い踊るように幸村をさいなむ。
つきつけてやりたいのだ。
俺は知っている。
貴方が本当は男に抱かれるのが大好きでこうやっていやがっているのもただの演技で、本当はもっと酷くしてほしいことを知っている。
早くつっこんで欲しくてうずうずしているのでしょう?
腰を揺らしたくて犬のようにはいつくばって、男を誘っているのでしょう?
肉が裂けて血がでるくらいじゃないと満足できないんでしょう?
欲しいなら素直になればいいのに。
よつんばいになって尻を出せばまだ潔いのに、うすっぺらいプライドなんかに囚われて、自分は潔癖ぶる。
そんな貴方を見ながら俺がどれだけ笑ったか教えてやりましょうか?
侮蔑と嘲笑の的でしかないのですよ貴方は。
貴方の本性を知れば十人中十人が笑うし軽蔑するでしょう。
それをひとがせっかく口を閉ざしてやっているというのに……
(貴方は……)
佐助は幸村に表情を見せまいと、うつ向いている。
(どんな顔をして、俺以外の男に抱かれたのですか……?)
宿る憎悪に任せ、その敏感な耳に告げよう。
「貴方が男に抱かれるのが大好きなことくらい、ずっと前から知っています」
自分を守るプライドという壁が壊れたとき貴方はどうなるのでしょうか?
(自分を守るものごと心は壊れる?)
その時は……
(何もかもこわれて、そのあとに残るものが汚くて愛しい貴方の本能だけならば)
従順で飼い主たる俺のいうことを素直に聞くただの犬になってください。
了
佐助が上司で幸村が下克上。
最終的にはこんな風になるのではないかと……
妄想。
なんだかんだいいつつお似合いではないかとおもいます。
2007.08.01
四既