「お仕事ですから」
全てを受け入れきった台詞は、幸村の興を削ぐ。
閨においては、逃げる獲物を追い詰め、殺すような行為を好む悪癖の幸村には、腹立たしい台詞である。
幸村は組み敷いた佐助の薄い色の瞳を見据え、ちっと舌打ちした。
脅えは映さず、宿る感情といえば愉快そうな、何か滑稽なものを見つめるような嘲笑。
主と言えど、年下の男に犯される屈辱なり恐怖なり浮かべればいいのに。
思うようにならぬ忍は、幸村が動かないことに疑問を持ったのか、薄い笑いを張り付けて自分から幸村に指を伸ばす。
その指を封じ、幸村は佐助の上から退いた。剥いだ着物を佐助に投げる。
「もういい。下がれ」
幸村の言葉に、佐助はくすっと声だけで艶めく笑いを溢す。背を向けていた幸村は、思わず瞳だけ佐助に視線を戻し、ぞわっと背筋に興奮と欲情がひた走り、それが全身に巡るのを感じた。
妖しの類のような色の華が咲き乱れ蜜まで滴らせているような笑み。
それに魂まで持っていかれ、自失した後、それを屈辱と取った幸村は、幸村の意識を奪う程の佐助の色香に、皮肉を送る。
「何時から戦忍をやめて閨忍になったのだ?」
さあ、とわざとらしく小首を傾げるさまは、子供のような無垢さを持ちながら、遊女のような淫らさがある。
男の体も女の体も知りつくした忍は、男を誘うにおうような艶を白く滑らかな皮膚からたちのぼらせ、意識しているのか、赤い実のような唇をぱっくりと割り、なにかいやらしいものに見える舌を幸村に見せる。
「俺は今も昔も戦忍のつもりだけど?」
佐助の舌が陰器のように見えてしまっては、俺も末期であろう。幸村は興奮し存在を訴える無視出来ない。
佐助の下半を見れば、己のものと違い随分と大人しい。
「まあ、仕事であれば、閨事もしますがね」
忍は事も無げに言う。
佐助は投げてよこされた着物を半端に体に引っ掛ける。胸の先のなぶりたくなる小さな実が、ちらちらとのぞき。幸村の陰茎が更に涎を垂らすのが分かった。
「ならば……」
忍のほうが一枚も二枚も上手。今この状況で抱いても佐助は抱かれてやるという意識が大きいに違いない。
佐助に屈辱を課してやることはまだ出来ない。
「俺がどれだけ酷くしても大丈夫だな?」
佐助が逃げたくなるほどの暴力と乱暴を繰り返し、自分好みの弱い獣になるまでこやつを落とせば良い。
自分の好みのものを見付けだして抱くより、そちらのほうが余程面白い。
逃げる佐助を抑えつけ、無理矢理犯す光景を想像し幸村は笑む。
泣きながらやめてと許しを乞う姿はさぞや美しいだろう。
幸村は佐助を押し倒し、己が逸物を取り出し、慣らしもしない場所を貫いた。
佐助は悲鳴を殺す。流石の忍も、男を準備なしで受け入れるのは辛いらしい。
佐助の中はきつく、痛みを訴えるが、それが佐助を己好みに仕立てるために必要なものだと思えば、その痛みすら愛しかった。
堕ちるところまで堕ちればいい。
幸村の部屋の前に立つと、その気配に主は気付いたのか視線を寄せた。障子に映る人影はふたつ。ひとつは少し起き上がり気味にしているもの。ひとつはそれに下にされているもの。
「……どうした才蔵?」
「気になることがあり、報告を……」
才蔵の声に、それまで下にされていた影が身じろぎし、起きあがろうとする。
「……けてぇ」
小さく助けを求める声は何年か前まで、才蔵の上司であり友であった猿飛佐助のもの。
「……ぃらいよぉ……」
かつてはどんな拷問にも屈しなかった忍の泣き事に、才蔵は虚しいのか悲しいのか分からない奇妙なものを胸に生む。
影はもうひとつの影に足を抱えられて強く腰を叩きつけられる。ひぃっと高い悲鳴が才蔵の耳を刺し、才蔵は耳を塞ぐことも顔もそらすこともできず、佐助の悲鳴を聞いた。
「しばしそこで待て」
陰猥な水音と皮膚同士がぶつくる高い音が忙しくまざりあい、薄い障子越しにこちらにまで漂ってくる濃密なものを生む。悲痛な叫びはやがて甘い声にかすれていった。
「こやつを仕置してからいく」
愉快げな声の主は、熱いものを哀れな影に叩きつけた。
女のように高い悲鳴があがり、影がぱたりと倒れこむ。
繋がっていた影が結合をとき、身支度を整えると、障子戸が開いた。
白いものをつけたままの主が才蔵を見下ろし、才蔵は幸村の瞳を真っ向から見つめることができず、視線をそらした。
そらした先には、目を瞑り、……恐らく気絶してしまったのであろう佐助が横たわっていた。
堕ちるところまで堕ち、這いあがることもできない。
070527