思わず、佐助のことを押し倒していた。
「否定しろ!佐助!」
幸村の剣幕に脅えて、佐助は顔を青くした。
あ、あ、と音にならぬ声が漏れる。
「ごめんなさい。……嘘です」
なんとか佐助は言う。
幸村は佐助の体の上から離れた。
「怖がらせてすまなかった。だが冗談でもそのようなことは言うな」
幸村が真剣に見つめてきて、佐助は顔を赤くしてその瞳から逃れた。
「……うん」
ふう、と幸村は息を吐いた。
「……その、某が言いたかったのはだな……」
幸村も佐助から視線を外す。気まずそうに背中を向き合わせる。
う〜ん、幸村はうなり、言葉を探す。
「佐助は、眠れないと言って、才蔵のところに行っただろう?何故だ?」
「何故って、忍の中であいつを一番信用してるし……」
「では、才蔵と某、どちらを一番信用している?」
その質問に佐助はつまり、
「旦那と才蔵は比べられる位置にいないよ。旦那は主で、才蔵は仲間だ。信用する事柄が違う」
「ならば質問を変えよう。某のことを信用をしているか?」
「……何において信用とするかわからないけど、自分の全てを任せられる人だと思ってる」
ああ、何真面目に恥ずかしいことを言ってるんだろ!
佐助は顔から火が出るのかと思えるほど羞恥を覚えた。
その場をごまかすための冗談ではなく、真実の想いを告げているから恥ずかしい。
「ならば……」
幸村の声が間近に聞こえて、佐助はびくりとした。
気付いた時には、佐助の細い肩は幸村の逞しい腕に捕まっている。
「……何故俺を頼らない。信用しているのだろう?」
後ろから自分の頬を佐助の頬に押し付け、甘えるようにきゅ、佐助を抱き締める。
「……あ」
今まで、幸村に抱きつかれたり、触れられたりすることは、何度もあった。
けどそれは、子供が母親に甘えるようなもので……
こんな……
(こんな?)
佐助は心臓がばくばくと鳴るのを抑えられなかった。
「……やっ」
小さく抵抗を示すが、幸村の腕は微動だにしない。
「質問に答えるまで離さぬ」
さらに強い力で抱き絞められた。
「佐助……」
甘く、やけに低い声で名前を呼ばれる。
戦場で、武将として佐助に命じるときの声に似ている。
けれど、全くの別物で。
圧倒されるような魂に刻まれるような、あの声とは違う。真っ向から服従を迫られる、猛々しい声とは違う。
苦しくないのに苦しくなる声だ……
「……はやく」
耳元に吐息がかすめる。
「……ぅん!」
背筋を何かがぞくりと這う。
喉から耐えきれず声が漏れた。
え、と佐助は戸惑った。
反射的に漏れた声の意味が分からない。
動揺する佐助を幸村は見下ろす。
この程度ことで感じてしまうのか、そして状況を理解していない佐助に呆れる。
男を知らないというのは本当のようだ。
(俺が、男を教えてやりたい……)
そんな欲求を持ってしまう。
(でも、駄目だ)
強姦のようなことはしたくない。
佐助が自分を好きになってくれなければ、行為には意味ががない。
性欲を満たすだけなら小姓や遊郭の女だけでこと足りる。
(でも、この程度の悪戯なら許されるだろう)
「なあ、佐助……」
びくびくと佐助が震える。
敏感なのは『忍』の頃名残だろうか。
ここまで反応を示す女や小姓を相手にしたことがない。
(愛しすぎて、某がどうにかなりそうだ)
「某はもう、佐助が思っているほど子供じゃない」
「ややがどのように出来るかも知っている、大人だ。」
「頼ってくれても良いだろう?」
焦ったように矢次早に言えば、佐助はそれに答えようと必死になる。
「だ、旦那は……!」
緊張のあまり声が裏返っている。
(駄目だ。可愛すぎて……死にそうだ)
「俺にとって主で……」
一生懸命声を絞り出して言葉にしようとする佐助。
「才蔵は俺にとって仲間だから、気安いっていうか……」
「気安い……?」
幸村は眉をしかめる。
ああ、まただ。
胸の奥がいらつく。