佐助の姿が見付からない。
佐助が忍の力を失って一週間がたつ。
この間に幸村は佐助の行動を大体を把握していた。
昼時を過ぎると大体与えられた一室で縫い物など、明るくないと出来ない仕事をしている。
しかし、佐助がその部屋にいない。
掃除でもしているのかと思い、屋敷のあちこちを探すが見付からない。
買い物にでも行ったのか?と他の女中たちに聞くが、買い物は先日済ませたばかりだから必要ないはずですと返された。
あの生真面目な佐助が遊びに行くために屋敷を出るとは考えられないし、いよいよ行き先がわからなくなった。
佐助の姿が見えず、何処にいるのかも分からない。
(何処にいるのだ?)
佐助の姿がないと落ち着かない。
この一週間で佐助が側にいるのが当たり前になってしまっていた。
以前は佐助が仕事で自分のもとを長らく離れても平気だったというのに……
(これでは佐助が元の力を取り戻して前のように働き出したら……)
不安で不安でたまらなくなる。想像しただけで胸がかきむしられるような想いをする。
この平和な時ですら佐助が自分の視界に入らないと不安で落ち着かないというのに、危険な任務になど送り込めない。
(一時たりとも、離したくない)
あわよくば永遠にこの腕の中に閉じ込めておきたい。
そんな欲求が自分の中にある。
(いっそ、ずっと無力なままでいい)
そうすれば、戦いに出さないですむ。傷つけずにすむ。
失うかもしれないと、恐怖に似た不安を抱かずにすむ。
佐助をただの女として守ってやれる……
佐助の力は武田の上洛の為に必要不可欠と理解している。けれど願わずにいられなかった。
(忍に戻るな……佐助……)
*****
結局自分ひとりでは見付からないと、忍を手伝わせることにした。
才蔵ならすぐに佐助を見付出すだろうと、彼の部屋に行く。
「才蔵、佐助が何処にいるか探してきてくれぬか?」
――と
がたがたと乱暴に引き戸を開け、才蔵に頼んだ瞬間それは無意味になった。
さんざん探し回った佐助は調べものをする才蔵のわきで、体をまるくし眠っていた。
その体には、おそらく才蔵のものであろう肌かけがかかっていた。
幸村はその瞬間、言葉には表せない苛立ちを覚えた。
他の男の着物が佐助に触れていることが、許せなかったのである。
「佐助なら寝ています」
幸村の険しい表情なと気にせず机にむかい、書に目を通している。
「……見ればわかる。何故佐助がおぬしの部屋で眠っているのだ?」
不愉快さを隠す気もない刺々しい声。
「夜が怖くて眠れないそうです」
「夜が怖い?」
いくら力を無くしているとはいえ忍である佐助が?
「そう言うと語弊があるかもしれませんね。佐助はどうやら、周りの気配を読めない状況に、恐怖感があるらしいです」
才蔵は語る。
佐助たち忍の睡眠は元々浅い。それはいかなる時にでも敵の気配を察知し、対応できるよいにするためだ。
眠っていても常に周りの気配を読み、警戒する。
しかし佐助は気配を読むことが出来なくなってしまった。
いつ刺客が来るのかもわからない。
刺客が来てもわからない。
その不安と恐怖が佐助から安らかな眠りを奪っていたらしい。
この一週間、佐助はろくに体と心を休める暇がなかった。
「まあ、それを全く表に出さず、一週間幸村さまたちを騙せたのは、腐っても忍と言ったところですね」
「そうだったのか……」
幸村は佐助の疲労に気付いてやれなかった己に憤りを感じた。
「それでも……」
と、才蔵は続ける。
「これほど私たちが会話をしてうるさい状況で眠っていられるなど、忍として失格です。大体ひとりではぐっすり眠れないなどただの我が儘です」
才蔵はそう言い捨て、口を閉じた。
これ以上幸村と会話する気はないという意思表示である。
幸村はそんな才蔵を咎めることはせずに、眠っている佐助をじっと見つめた。
佐助の寝顔など初めて見る。
それに新鮮な驚きと喜びを感じていたが、頼るのが何故自分ではなく才蔵なのだと、腹の奥からふつふつ怒りが込みあがってくる。
その寝顔があどけなく、愛しいと思えば思うほど、誰に対して降り下ろせばいいのか分からない拳を強く握った。