幸村はそろりそろりと背後から佐助に近付く。

極力音をたてない。

繕いものに集中しているせいで、幸村のお粗末な忍足に佐助は気付かない。

以前とは違い、自分が声をかけるまでこちらに気付かない。

「佐助!」

「いた!」

背後からいきなり抱きついたら、佐助は顔をしかめた。

何事かと佐助の見つめるさきに目をやれば、細い指。
抱きつかれて指をすべらし、針で刺してしまったらしい。

「ちょっと、いきなりなにするのさ」

「す、すまぬぅ」

幸村は縮こまるが、それでも佐助を離す気配がない。
佐助の針で刺してしまった指をみると、小さい赤い玉がぷつりと浮いている。

幸村がその手をとると、佐助は何をする気かと首を傾げた。

そして幸村のとった行動にぎょっとする。

血のついた指を口に含んだのだ。

「だ、旦那!いきなりなにするのさ!」

それには答えず、口に含んだそれを舌でなめる。

ねっとりした柔らかさの舌の感触に、寒気とは違う感覚の何かが、佐助の背中をぞくりと這う。

「だ、旦那……?」

弱々しげに疑問譜を浮かべる佐助の顔に、朱が混じっている。

幸村はそれを横目でみやり、くすりと笑った。
口に含んだ指を出し、「消毒だ」と子供のように笑った。

無邪気なその様子に、佐助はきょとんとした顔をし、すぐに顔を赤くしてそっぽを向いた。

「そんなことしなくてもいいっつーの!とにかく離れなさい」

「いやだ」

幸村はそういって、更に佐助を強く抱き締めた。

「佐助を溜ておるのだ」
「はあ?なんだよそれ」

「佐助はいつも仕事で某の側にいないからな。そのかわりにに今こうやって佐助だめをしているのだ。」

寝溜ならぬ佐助溜。
それがなんの効力を発揮するか知らないが、幸村はさも当然のように佐助を抱き締める。

「なんだよそれ!大体これからしばらくずっとあんたの側にいるんだから溜める必要ないだろ!」

「これからずっと佐助を溜めないと某死んでしまう〜」

佐助の背中にぐりぐりと頭を押し付ける幸村。

「どういう理屈だ!」

むしろ理屈ですらない。

佐助がどんなに離れろと言っても、結局幸村は夕ご飯の時間になるまで放してくれなかった。