結局佐助はふたつきの間もぼうっとすることができず、女中と同じように仕事をするようになった。

忍装束は着ない。

鎖帷子が重く感じろくに動けないからだ。

女中と同じ着物を着て働いている。

「んっ……!」

佐助は井戸から水を運んでいた。

以前ならこの程度の重量軽々と持って運べたのに、ひと苦労している。

手に、細い金属の取っ手が食い込んで痛い。

雑巾かけをするために運んでいるのだが、その場所がはるか遠くに感じてしまった。

「佐助」

「ひゃあ!」

いきなり背後から名前を呼ばれ、佐助は驚いて声をあげた。

ひとの気配を読む力も失ない、いきなり声をかけると最近の佐助は驚いてばかりだ。

忍の頃の警戒心は消えないくせに、忍としての感覚を失なっている。

忍の時のくせで背後を取られると、(殺されるわけでもないのに)殺される!と感じてしまう。それ故の悲鳴である。

(まるで霧の中にいるみたいだ)

感覚が閉ざされている。
ぼんやりとして、視界がせばまっている。

「旦那!いきなりなんだよ!」

佐助がちょっと怒った様子で幸村を睨みつけると、

「いや、重そうだから、某が運ぼうと……」
佐助の剣幕にたじたじしながらも、佐助の持った水をくんだバケツに手をのばす。


その手を佐助にぴしゃりと叩かれ、幸村は首を傾げた。

「佐助?」

「手伝いはいりません。このくらい俺ひとりで運べます」

刺々しい佐助の態度に、幸村はめげない。

「重いのだろう?意地をはらなくてもよいではないか」

「このくらい重くないです。それに俺は意地なんか張ってない」

ぷいっと向き直り、(すたすたとはいかず)バケツの重さに体が傾いたまま進む。

取り合ってくれない佐助の態度にめげず、幸村はすぐに後をおいかけ、肩を掴む。

「なに」

と、不愉快げに声をあげる佐助にに、と笑いかけ、その体を持ち上げた。

「きゃあ」

佐助は悲鳴をあげた。

「バケツを渡してくれぬならば佐助ごと運ぶまで」

楽しそうに声をあげ、佐助を肩にかついだままずかずかと屋敷に向かっていった。



あとがきっぽいの

その後、佐助さんの小言を楽しそうに聞く幸村の姿が目撃される。

佐助さんに相手してもらえて嬉しい幸村。

いつもお仕事で佐助さんは幸村の側にいないから。