体の力が、すとんと抜けた。

「あ、はぁ……」

こぼれる息に艶めかしい熱がこもる。
幸村が遠ざかっていくのを足音で確認し、佐助は閉じていた目を開けた。

(なんで……)

先ほどまで触れあっていた唇にふれ、濡れた柔らかな肉をなぞる。
その名残があるかのように淡く熱を孕んでいて、薄く濡れていた。啄むように唇をやわらかく食まれた感触が今だ、生々しく残っている。
気のせいだと、自身に嘘も出来ぬほど、長く。

幸村の唇が、ここに、触れた。

(っ……!)

思い返すだけで顔が熱る。
よく、ばれずにじっとしていられた。いや、驚きのあまり体が動かなかったのかもしれない。
緊張から解き放たれた身体は指一本動かすのも億劫なほど弛緩しきっている。

(心臓が……)

痛いくらいに荒々しく鳴っている。
意思とは裏腹に勝手に鳴り響き、佐助に幸村の感触を思い出させる。
熱く高鳴るそれは、緊張なのか……それとも……
佐助は聞いてはいられず反射のように耳を塞いだ。
しかし、外部の音を遮断したせいで余計己の脈動を聞いてしまう。


佐助は幸村の怒りの混じる声を聞き、慌てて寝たふりをした。まともに顔など見られず、だからと行って逃げたら逆効果になると思ったから。

それが良かったのか、悪かったのか。
あんな告白をされた後では判断することができない。

(なんで……あんなこと……)

蘇る幸村の告白。
響き渡り体中を熱くさせる。佐助は胸元を掴みたぎる熱を抑えこむかのように身をまるめた。

『お前を一人の女として……』

「あっもうっ……」

佐助は顔を真っ赤にしてうめく。

勝手に繰り返すな。
止まれ止まれ、俺の頭!

「……っなこと言われてもっ……」

困る……



なんだよ。それ……

いきなり……

ひとのこと女として見てるなんてっ。

(俺は忍で……)

女だけど、確かに体は女だけれど……
旦那からそんな風に見られるような女じゃないっていうか……
胸もちっちゃいし。性格も話し方も男っぽいし……

いや、言いたいのはそんなことではなく……

(か、体は確かに女のものでも!俺は忍なんだから女として見るのは間違ってる!)

大体、今まではそんなそぶり全く見せてこなかったくせに……

なんで今更……

(やだ……)

怖い……

ぶるりと体が震えた。

女、として見られていることが怖い。

あの、抱き締めているときも、俺を女として……見てたんだ。

なんのために?なにを思って?
女の抱き方を知っていると言った。

低く己に命じる声音は、自分が知る"少年の幸村"ではなく、"男"のものではなかったか。

肌の奥がぞわりとした。耳を擽るようにかけられた吐息の感触。
強く体を抱き締めた腕。

あがらうことすらできない……

『愛している……』

(そんなこといわれても……!)

佐助は頭を抱えて混乱する。

『大人の……』

ああ、認めるさ!
何時までも子供みたいだった幸村さまが大人になったのを!

背を追い越して、
自分の背中ばかりおいかけていた小さな貴方は。
いつの間にか俺に背中を見せて、俺はそれについていくようになった。

逞しい双腕。
覇気に溢れる声。

『男なのだ……』

「……そんなのやだよ……」

男として、思われたいわけじゃない。
自分たちは、主と忍としての関係で十分なはず。否、それ以上の関係になっていいわけがない。

ああ、それでも。わかってしまったのだ。

(俺、旦那を男として見てるんだ……)

主としてでも、手間のかかる子供のような思いでも接することは最早できず。

高鳴る胸はただの女になった証拠のように佐助をざわめかせて。

胸のなかにともるのだ。

小さな、小さな火が。







それが幸村のいう愛なのかはわからないけれど、忍が持つべき感情ではないことくらい本能でわかった。




今は忍ではない自分が、それをこらえるのはとても無理なことだと佐助は思った。




久しぶりすぎ