あれから二年・・・


佐助は二十一になり、その主である幸村は十九になった。

 


そして、かつての佐助の予感通り、日本全土を巻き込んだ戦が始まっていた。

 

 

もうもうと立ち込める砂煙。

大地をうめつくす、肉塊。


鼻が麻痺するほどの、血のにおい。

 

 


戦場に咲く、一輪の花のように。

 


踊り狂う、二つの影。

 

人の命を奪っていく、狂乱の舞い。

 


◇◇◇◇◇◇◇◇

 


戦場を高地で見つめるものがいた。

「武田か・・・」

片方だけの目は、オレンジ色の髪の忍に向けられていた。

「あいつか・・・」


昔、俺を助けた忍。


その隣りにいるのが奴の主である真田幸村。


自分より、二つ年上とは思えない、幼い顔立ち。


その顔は戦場で生き生きと輝き、敵をなぎ倒していく。


まさに鬼神のごとき強さだ。


「ま、俺の敵じゃねえな」

真田幸村に対する興味はなくなり、再び佐助に目をやる。

 

そして、おや、と政宗は違和感を覚えた。


今まで圧倒的な強さを見せていた忍の技が鈍ってきているのである。

わずかに、少しずつ。

疲労だろうか?

主の逞しい体つきとは反対の、華奢な体つきでは、基礎体力が違うのだろう。

同じ動きをしていて、差が開いてきた。

自分の戦いに集中している幸村は気付いていないが、忍の表情は辛そうに歪んでいた。


それでも敵をほふっていくのだから、かなりの実力者である。


結局、その地点に居た敵全てを二人だけで撃破する。
「行くぞ!佐助!」

部下の不調に気付かない幸村は、次の敵を求めて走っていく。

佐助の足取りに不安なものはない。
主に見せる表情は余裕そのもの。

だから、幸村は気付かないだろう。

「やれやれ、忍使いがあらいんだから」

苦笑して、幸村とは別方向へ走っていく佐助。

笑みが消えると、辛そうな顔になった。

「but!見ていられねえぜ!」

政宗は馬と共に高台から飛び降り、佐助を追った。


◇◇◇◇◇◇◇◇


(やばい、ね・・・)

原因はわかっていた。

普段なら、この程度の動きで、体はばてない。

(全く、ついてないなあ)
鈍い痛みを訴える腹部。

鉛を埋め込まれたようで、体が思うように動かない。

相手が雑魚だからいいが・・・

(これで武将を相手にしていたら、絶対に死んでるなあ)

心の中で呟き、武器を振るう。


佐助には、歯がゆく思える動きだったが、その場に居る兵士を殲滅するには十分だった。

 


―――はあはあ。

 

荒く息を吐き出し、深く息を吸い込んだ。


佐助の足は、完全にふらついていた。

 

(本当に、ヤバイ)


気分は最悪。
頭もずきずきする。


あーなんでこんな時に薬忘れるかなー。

 

主のことばかり考えて、自分のことをおろそかにしてしまった。

 

(忍失格かな?)


軽く落ち込み、腹に手をあてた。


相変わらず、鈍い痛みが続いている。


しまいには、目眩までして―――

 

(あ)


佐助は、自分が倒れていくのがわかった。


敵を倒した後でよかった・・・

 

そんなことを思いながら、血の色に染まった地面を見つめる。

 

「おっと」


低い、男の声が聞こえた。

固い地面に倒れた衝撃はこない。その変わり、固い感触のする胸に己が抱き止められていることを、佐助は知った。


(旦那?)

いや、違う。

主はまだ別の場所で戦っているはずだ。

 

佐助は、緩慢な動作で、顔を上げ、自分を抱き締めている者が誰かを確認する。

「戦場で倒れるなんて、命とりだぜ?」


精悍に整った顔立ちに、人を見下すような笑みを浮かべていた。

左目につけた眼帯に見覚えがあった。


(伊達政宗・・・)


「それとも死にたいのか?」

政宗は表情を崩さずに尋ねてくる。

佐助は何か言おうと思ったが、どうにも上手く口が動かない。


それどころか、意識が遠のいていく。

(本当に・・・忍失格だ・・・)

体調管理もできないなんて、情けない。


ああ、でもなんでこいつがここに・・・

 

疑問を口にする前に意識を手放す自分自身に、役立たずと罵りながら、佐助は気絶した。

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

「Ah?まじかよ」

自身の腕の中で気絶してしまった忍に、思わず声をあげた。

こんなので、本当に忍として役にたつのか?と、失礼なことを考えながら、政宗は捨て置くわけにもいかず、佐助を抱きかかえた。

 

「・・・ん?」

 

有り得ない、違和感があった。

 


おい・・・
待て・・・

 

なんで、こんなに体がやわらかいんだ?

 


男なら、もっとがっちりとした手応えがあるはずなのだ。


これではまるで・・・

 

 

女のようではないか。

まさか・・・

 

 


政宗は佐助の胸に手をあてた。

躊躇いとか罪悪感など、そんなもんはない。


予想とは違い、そこにふくらみはなかった。

 

政宗は納得いかず、佐助の服をぐいと胸の上まで持ち上げる。

 

丁寧にさらしが巻かれていた。
さらしの下では、胸がおし潰されていた。


政宗は佐助の着衣を元にもどし、「くの一なんて聞いてねーぞ」と、呆然と呟いた。