佐助は最初は笑っていた。
焦るように佐助の体を求める幸村を嘲笑ってすらいた。

「その顔を、やめろ……!」

「おのぞみとあれば。
貴方の下で生娘のようにあえいでやってもいい」


吐き捨てるようないい草に、

気付いたら、佐助の顔を平手で叩いていた。

ぱん、と高い音が響く。

佐助はそれに微動だにせず、口元に笑みを刻んだ。

「殴りたければ好きなだけ殴ればいいさ。
貴方の好きなようにすればいいよ。
所詮俺はただの忍だ。貴方に殺されたところで、文句もいわない」

何の感情の篭らない、冷たい氷のような目。
幸村は肚の奥で何かがぶちりと切れる音を聞いた。

気にくわない。
気にくわない。
気にくわない!

身の内に炎を飼っているかのようだ。

怒りは佐助に対する欲情と独占欲を煽る。





ぐちゃぐちゃにしてやりたい!

抱きたい。

自分だけのものにしたい。
体を手に入れるだけでも満足できない!

佐助の心が欲しい!

以前の自分だけを見つめていたように、佐助の心を己に繋ぎとめたい。

全てを自分のものに……




それには佐助の体に残る紅い痕が邪魔だった。

自分以外の男と睦みあった証など不快でしかない。

幸村は、佐助の白い肌に歯をつきたてた。

ぶちゅっ!

幸村は皮膚ごと痕を噛みちぎった。

白い肌に点々と残された赤い跡を、皮膚ごと咬み千切ると、ぽつぽつと血が飛び、押し殺した悲鳴が佐助の口からあがった。

佐助が初めて表情らしい表情を浮かべ、動揺した。

それで、幸村はようやく自分は優位に立てたのだと実感した。

「許さぬ。俺以外の者がお前に触れた痕など残してなるものか」

にやり、と笑う。

底冷えするような、戦場で見せるような闘志と殺意がいりまじった笑みだ。

佐助は目の前が真っ暗になった。自分の体には睦みあった証がたくさん残っている。

この男はそれを全て咬み千切るつもりか?


これが閨で行うことか?

拷問と大差ないではないか!

幸村に咬み千切られた部分が、じくじくと痛む。

そこを幸村が舌の先でちろちろと舐める。

舐められることでじくじくと痛むと同時に、あがらい難い快楽を感じた。

あえぎとして音をなさぬよう、佐助は慌てて声を押し殺した。

ぎちり、……ぎちり……

ぶしゅ……ぶちゅ……



皮膚を咬み千切られる音と、鮮血が緩く溢れる音が、佐助の耳に届く。

拷問とは違う苦痛。

性交とは違う快楽。

初めての体験に佐助の冷静な仮面が外れる。

佐助は思わず哀願した。

「だんな、やめて……!」

抗議の声を無視して、佐助の体に傷を作っていく。

幸村は抵抗し、逃げようとする体を押さえ付け、低い声で囁いた。

「大人しくしろ。これは命令だ」

その言葉に、佐助は目を見開いた。


うなじ、首筋、胸、腹、背、腰、大腿……佐助の全身は血まみれになった。

布団には赤い痕をのこし、幸村の着物も佐助の血で汚れた。


鈍く痛む傷口。


溢れる鮮血をすすられる。

熱を物つ舌が佐助の体を這う。

それだけで佐助の体はびくびくと痙攣した。

佐助は矜持だけで自我を保ち、幸村は閨の情欲に濡れた目をしながらも、冷酷な理性を保っている。

一度切れた糸は、もう一度繋ぎなおしても、もと通りになれるわけではないのだ。


今や完全に幸村が主導権を握っていた。





続く