「ねえ、旦那。自分が誰を抱いてたか分かる?」

いつもは瓢々と笑う忍が、無器用な笑顔を張り付け問うた。

「上杉の忍であろう?」

幸村は情後の熱った体を冷ますように夜風にあたる。
しっとりと汗に覆われた体をしている幸村に、そんな格好で風邪ひいても知らないからね、と忠告する佐助の声が弱い。

「……まあ、お前が自慰の捌け口に使うのも分かる体だったな」

「……それ、わかっててやったんだ」

佐助は最早笑うことを諦め、苦虫でも噛みつぶしたような顔で、うつ向く。

「しかし、あれだけでは欲求不満だな……なあ、佐助」

「……」

佐助は返事をせず、床の木目を見つめる。唇を噛みしめ、睫毛を震わせていた。

「閨の相手をしてくれ」

頼むような物言いだが、命令でしかなかった。

欲情し、艶めいた男の瞳が、うつ向く佐助を捉え、雄の焔をたぎらせる。

嫌だ、と拒みでもしたら、獣の牙は遠慮なく佐助を襲うのだろう。

「……わかったよ。でも、まさか俺を死体の転がっている部屋に連れ込む気?」

「まさか。部屋などたくさんあるのに、骸がある部屋で大事なお前を抱くわけがあるまい?」

あの女の血で汚すかもしれぬと思うだけで、恐気がたつわ。と唇が上弦を描き、立ちあがる。

……その体にはべったりと血が張り付いていた。

女の、かすがの返り血である。

「忍なんかを大事にしても、意味ないよ。旦那」


「……何度も言っているだろう?忍ではなく、お前を大事にしているのだ」

紅に彩られた凄絶な笑みに、佐助は反射的に一歩下がる。

忍の恐れを気にも止めず、幸村は湯浴みに行ってくると告げ、佐助のすぐ隣を通りすぎた。

濃い、血の香りに佐助は軽く目眩を覚えた。

酷く酷く、身に刻みつけられた、幸村の言葉。


『忍ではなく、お前を大事にしているのだ』


佐助は乾いたわらいを漏らす。

……よくわかったよ。

あんたがどれだけ忍をどうでもいいと思っているのか……

そしてどれだけ自分に執着しているのか……


「悪いな……かすが……」


あの時、生かさずに殺していれば屈辱の後に屑のように骸を放置されることもなかったのに……

佐助は暗い表情で幸村の部屋を見つめ、背を向けた。