「旦那……!嘘だろ!目を覚ましてえ!」

亡骸にすがりつき、泣き喚く忍を、政宗は冷めた目で見つめた。

嗚呼、そう言えばこいつ"ら"にはとどめを刺していなかったな。

信玄に謙信、そして名も知らぬこの忍と。

信玄と謙信は、体勢を整えたらまた政宗と一戦を交えようとするだろう。

それこそ、政宗の望むところ。
闘争は幾度となく行っても飽きることはない。

……しかし、こいつは生かしておいても、意味がない。

愚かにも政宗に背を向け、二度と目覚めぬ主の体を揺さぶり、必死に声をかけ続けた。

幸村の血に濡れた刀を、その僕に向ける。

政宗の殺気に気付いたのか、忍は振り返った。


政宗は、忍を殺す気が、失せた。

……いや、今さら一撃を加える必要がなかったことに気付いたと言うべきか。


忍は、最早死に向かっているのだ。


腹を爆撃によってえぐられ、どす黒い色で醜くへこませていた。

助かる傷ではなかった。

顔は泥や煤で汚れ、血に染めあげられていた。

夕陽のような髪も今や見る影なく黒ずんでいる。

汚いだけのその姿のなかで、ただひとつ、美しいものがあった。

涙を流していたその目は、今や政宗の心を捉えて離さない。

忍の目が自分を捉えた瞬間を、なんと表現すればいいのか、わからなかった。

言葉を失い、その目の中の世界に飲み込まれる。
気が狂うような静寂。
溺れるような焦燥。
苦しくなる圧迫感。

虚ろでも嘆きでも悲しみでもない、熱も冷たさも感じない、ただ純粋な白によって染められたような綺麗な瞳。

その瞳に政宗は呼吸すら忘れ、ただ立ちつくす。

ごふり、忍は血を吐いた。

静けさを破るその音に、政宗は自我を取り戻す。

「なあ、俺を旦那と一緒に埋めてくれよ……」

主の死をようやく認めた忍は、それだけを呟き、その美しい煌めきすら消し去り、汚れたただの骸となった。








静寂と焦燥と圧迫感。

その中に息つくものは、忍の主への感情。







政宗は二人の遺体が埋まる墓を見つめた。








静寂と焦燥と圧迫感。

それは政宗が一瞬の邂逅の果てに抱いた感情。







抱いた瞬間に、無意味となった、静寂と焦燥と圧迫感……











英語が苦手です