現れる肌に欲情するのは俺ばかり。

欲情に晒されることに恐れるように、うるむ目はどんな女より蠱惑的だ。

「旦那……」

口元は旦那の胸を飾る桃色の実へ。

片手は旦那の最も敏感な所へ。
くちゅ。と飾りを口元に含み、柔らかく歯で噛む。
片手は柔らかに旦那のものを扱く。

「ど……?」

俺は旦那に目を向け、尋ねる。

「感じる……?」

旦那は首を振った。

「ただ、触れられてるとしか……」

その証拠のように、旦那のものは一切反応しなかった。

旦那は悲しさを隠すためか、困ったように笑った。

「もう……よいだろう。佐助。某のような者といたしてもつまらぬだけでござろう」


俺は旦那にそんな顔をさせるいたらなさが悔しくて、俺はまだっと語気を荒くして断った。

ずりずりと下がり、旦那の萎えた逸物をくわえる。
必死になってしゃぶるが、ぴくりともしなかった。
先走りも出なければ、固くもならない。

旦那は半身を起き上げ、旦那自身を舐める俺の頭を撫でる。

「もういい……」

諦めが混じった声に、かあと目の奥が熱くなった。
勝手に頬を伝いだしたのは、涙だ。
ぼろぼろと涙が溢れて、下手をすればしゃくりあげて旦那のものに歯をたててしまいそうになる。
それが恐くて、俺は旦那のものを解放した。旦那のものにまとわりつきぬるりとしているものはただの俺の唾液で。

その現実は容赦ない。

「ごめん……佐助……」

「ら……らんながあやまるっぃっくことじゃ……ひっ、ない……俺が……」

この人は、一生情交の悦びを知らぬまま生きるのだろうか。

それとも、俺が相手だから感じないだけ?

「……おれが、わるいんらあ……」

旦那は男とするのが本当は嫌で、女性とするんなら立つんじゃないか、とか。男でも、俺だけが駄目で、他の男を相手にしたら感じるんじゃないか、とか。そんな考えが浮かんで……

「……おれじゃなきゃ……くぅっえっ、旦那はきっと……感じられるよ……ひぃっ、他の人となら、きもちよくなれるよ……」

旦那はそれに目をまるくし、慌てふためいて俺の肩を掴む。

「俺は佐助以外の者としたいと思わん!佐助じゃなきゃ意味がないっ」

旦那は必死に俺に訴える。

その言葉はとても嬉しかったけれど、旦那にとってなんの益にもならない俺に縛りつけているようで、罪悪感が増した。

「すまない……佐助……某がふがいないばかりに……こんなに悲しませて」

俺は首を振る。

「だ、だんなのほっがっつらいっだろ!?」

「何も感じないのはどうとも思わないけれど、お前が辛そうにするのは辛い。それに、こんな風に泣かれると、もっと胸が痛くなる」

旦那は俺の涙を拭いた。

「佐助、好きだ」

そう言って、初めて旦那から口付けてきた。

それは、触れるだけの。

唇が触れあって、すぐに離れていくもの。

それだけであったのに。

俺は顔を真っ赤にした。

「……佐助?」

いたたまれなくて、赤くなった顔を両腕で覆う。

けれど、旦那は俺の手首を軽々と掴み、隠すものを取り払った。
涙に濡れ、顔を赤くし、随分と情けない姿を旦那に見せていると思う。

「かっこっ悪いから……見ないでっ欲し、いんだけどさっ……」

「確かに格好良くないでござる」

俺は旦那の正直な感想に心底傷付いた。

そんな俺に旦那は大きな目に穏やか笑みを向ける。

「でも、可愛い」

旦那はもう一度、可愛い、と繰り返した。

俺の両腕を掴んだまま、もう一度口付けてきた。先ほどとは違い、舌を使って。
やはりまだぎこちないものであったけれど、俺の使う舌の動きより些か横暴なものを秘めた舌の動きだった。

口付けはやまない。
俺の動きを倣うように旦那の舌は奔放に自由になっていって、俺の口内を蹂躙する。
激しい口付けは呼吸を忘れそうになるけれど、人口呼吸のように息を吹きこまれて、空気を求める肺が無理矢理潤わせられる。
それでも足りなくて、反射的に顔を離そうとしたら、腕を掴んでいた手が耳と後頭部にそえられ逃げることが敵わなくなる。

吐き出す空気も、溢れる唾液も全て旦那の口腔に飲み混まれる。口付けの最中、旦那の喉仏がごくんと唾を嚥下するのを見た。俺はというと、そんな余裕がなく、口端からだらだらと唾液を溢す。
旦那は執拗にそれすらも舐めとり、飲みこんだ。

ようやく離れ、大きく空気を吸い込もうとしたら、また接吻を施される。

「んっ……しつこいっ」

旦那の胸をどんどんと叩き、俺は初めて閨の最中に悪態をついた。

旦那は、やっと俺を解放してくれた。ぷはぁっと勢いよく離れた唇から、俺は必死に息を吸い込む。口付けで呼吸困難になるなんて初めてだ。

思わず睨みつけてしまったら、うっとりした視線を返された。

「佐助は……本当は可愛いんだな……」

旦那は俺の頬に残る雫を舐める。

間近に迫った位置の顔のまま、旦那は真摯な目で俺を見つめた。

「……考えてみれば、おれはずっと佐助に与えられてばかりだった。
小さい頃もそうであったし。
告白してきたのも佐助だ。
佐助は一生懸命に俺を気持ちよくしようと頑張っているのに、俺は何も返せていない」


旦那は俺の体をゆっくりと押し倒した。

少年の、幼く頼りげなかった顔立ちに、決意が宿り、"男"を見せた。

「……今度は、俺が気持ちよくしてやるから……」