引き金を引いたのは俺だった。
殺さないことが罰なのだ。

生かし、肉体を酷使させ続けることが幸村の佐助への復讐なのだ。

 

 


紺碧の空に雲が流れ、地上に薄い影を落とす。
手入れされた草木がさわさわと風に揺れ、爽やかに奏でていた。
真田の本邸から歩いて少し離れた場所に、小振りながら見目のいい屋敷がある。
中流武士の住まう屋敷という風情であるが、そこで暮らしているのは、一人の男。
かつては忍として、戦場を駆け、徒花のように狂い咲いていた男だ。
猿飛佐助――と、呼ばれている。
佐助は、暮らすというよりも、半ば幽閉される形で、その離れで過ごしている。

"囲われて"いる。とも言えるかもしれない。

彼をそこに頑強に閉じ込めるものは何もなく、佐助は自分の意思で、そこにいる。

佐助の髪は、長い。

橙の特異な色が色濃くなり、余計化生めいている。

しかし、手入れされた髪はよくよく見れば美しい光沢を放っており、触れれば忽然とするほど絹のような滑らかさを誇っていた。
髪だけではない。
肌も整えられ、荒れる、ということを知らない。白く、滑らかなそれは、男のものという印象を与えない。
手も、そうだ。戦を知る忍のものと思えぬほど華奢で、傷さえなければ、白魚と言いたくなるほどの、美しい手。
全体を見れば、男という印象を与えない。丸みを帯た体は女のものだ。

しかし、佐助は男である。

れっきとした、男性。

だが、体つきは女であり、着ている着物も、また女のものであった。

農民や平民が着るものではない。武士の妻が着るものよりも高価だ。
佐助が着ているものは、一国の姫が纏う、それ。

刺繍も目眩がするほど繊細で、色も手の込んだ染色が施され上品だ。
帯飾りも高級品で、目の効く女が一目すれば喉から手が出るほどの一品である。

おそらく、佐助のみぐるみを全て剥ぎ取り売り飛ばせば、一生遊んで暮らせる金が稼げるであろう。

佐助は、その着物を半端に着崩し、切なく、鳴いていた。

「は、あ……」

犬のようによつんばいになって白くまるい尻を晒し、天につきだしていた。

……そこに、木刀が刺さっている。

菊門に容赦なくつっこんである。刃の部分は四分の一ほどのめりこんでおり、重力に従い、少しずつ、佐助の中をえぐっていった。

「ひいいっんんっ」

汗が流れ、佐助の体にえもいえぬ色気がまとわりつく。
肌を化粧する汗は、男を誘うにおいだ。

佐助は尻に木刀を生やした恥態のまま、動かない。
指を噛み、ずくずくと中をえぐるものの感覚に耐える。

誰も見ている者はいない。
佐助が愚かで淫らな格好を晒し喜ぶものは誰もいないというのに、佐助は一人悦楽と苦痛を堪える。

変わった趣味をもっているのではなく、幸村に命令をされて、この無様な格好をしているのだ。

幸村が、佐助が過ごすこの離れに現れたのは半刻ほど前のこと。
鍛練のあとなのか鍛練の最中に休憩のためにここに訪れたのか、汗だくだった。その手には汗に濡れた木刀が。

佐助が渡した手拭いをはじきおとし、背中を蹴り佐助を倒す。強い力を込め足で踏みにじられ、佐助は上手く呼吸することが出来なかった。

「尻をだせ」

低く短く命じる声に佐助は従う。重たい着物を腰まで捲り、尻を露にした。

幸村がすぐにしやすいように、そこには何時も何も巻いていない。

幸村は足を退かすと、乱暴に佐助の腹に足を滑り込ませ、下半を上げさせた。尻をつきだせという無言の命令であることを佐助は察し、胸を畳につき、尻だけ持ちあげた。

そこに、幸村の持つ木刀が、蕾をえぐり、入る。

全て無言で行い、虫けらでも見る、いや、それ以下のものを見る目で、佐助を見下し、何も言わず、残忍な行為を続ける。

幸村は木刀を佐助の中で出入りさせる。抜き、入り、抜き、入り。慣らさない無理な挿入が佐助の中の肌を裂き、彼が小さく悲鳴をあげても、止まらない。

男性器に見立てて佐助の中で抜挿が繰り返されるそれは、木で出来ているものであっても、"刀"だ。鋭利な部分が皮膚をひっかけ、酷く傷つける。

佐助は、悲鳴を押し殺した。
叫べば叫ぶほど、彼は不機嫌になり、佐助をなぶる。

簡素な部屋を、結合部の肉が木刀と擦れる音と、佐助の小さな悲鳴が満たす。

けぶるほどに濃厚な、赤い、憎悪が、幸村を中心にして蠢く。
それは佐助の体をなぜ、中で苛む木刀以上に、佐助を感情を揺り動かす。

佐助は胸の内にわだかまるものを吐き出すために叫びたい衝動に駆られるが、押し殺す。

佐助は、赦しを乞わない。
本当は、膝をつき額を床になすりつけ、幸村に謝罪したいのだ。
だが、それすら、出来ない。

佐助は幸村の気がすむまで、その凶行をやわな体で受け入れ、耐えねばならない。

それが、唯一の贖罪の方法。

幸村は木刀で佐助の中を十分に弄び、佐助に木刀を挿したまま手放し、憎しみの消えぬ眼で見下ろした。

「俺が抜くまでそのままでいろ」

幸村は佐助に背を向け、離れから出ていった。

幸村がいなくても、佐助は、そのままでいなければならない。
木刀をぬき、
幸村が戻ってくるときにだけ、さも命令をきいていたとばかりに、この格好に戻らなければならないというわけではない。

尿意を催そうとも、腹がへっても、苦痛があっても……

木刀をくわえたまま、尻をつきだしていなければならない。

誰が見張っている訳でもないのに、佐助は幸村に命じられたことを頑に守ろうとする。

それが償いだからだ。

佐助は幸村に対し、赦されざる罪を犯したのだ。

*****

「幸村さま」

ぱたぱたと足音をたて、響く声で呼ぶ男は、忍ではない。

古くから幸村の傍らにいる小姓。海野六郎だ。

「頼まれていたものを持ってきましたよ」

淡い色の布の包みを手渡す。
幸村はそれを受け取り、ついでのように渡された手拭いを受け取り、汗を拭った。

「今日は熱いな……春の陽気とは思えぬ」

「そういう日もありますよ。井戸の冷たい水でも持ってきますか?」

六郎は井戸の方向をさす。図らずもそれは佐助の居る方向で、幸村の表情が苦く歪んだ。
六郎はそれに気付き、慌て謝る。

「す、すみませんっ!」

六郎は、佐助が幸村に何をしたか知っている。
非道な行いに誰よりも憤ったのは六郎で、温厚な彼が憎しみを露にして佐助に刀を向けた。

その刀を受け入れ、抵抗もせずじっと立つ佐助を狙った刀を止めたのは幸村。

何故、と六郎は幸村をなじったが、幸村は佐助の死を許さなかった。

あの時殺さなかったのは、復讐をするためだったのだ。と今なら分かる。

死を望みたくなるような過酷な責め苦。
それを永遠に課して、死ぬことも許さない。

しかし、六郎には分からないのが、佐助に高価な女ものの装飾を買い与えることであった。

幸村に手渡したもの。

それは特注させた簪で、物の見定めが下手な六郎ですら息を飲むほどの美しい細工が施されている。

これは佐助の髪を飾ることになるのであろう。

簪をさす佐助の姿を想像してみようとしたら、つい先日見た佐助の姿を思いだし、六郎は顔を赤らめる。

佐助は主と交わっていた。

記憶に新しく、そして強い衝撃を与えられたそれを思い出し、六郎はたまらず幸村から目を反らす。

主の"男"の顔と。
忍の"女"の顔。

離れの縁側で真昼から無防備に睦みあい、欲情をさらけ出していた二匹の若い獣の姿に、六郎は汗を滲ませ、興奮した。

艶事に感じたのか、主の顔に惚れたのか、はたまた忍の色めいた顔に欲情したのか。

六郎はすぐにその場を去り、誰もいない森で己を必死に慰めた。

真昼からそんなことをした恥ずかしさと、主のしているところを見た罪悪感がやってきて、六郎はいたたまれなかった。

「六郎?」

佐助以外には、昔と変わらぬ優しさを見せる幸村は、心配そうに六郎に声をかける。

怪しまれまいと向き直り、見つめた幸村の無垢な子供のような顔が、佐助を苛む男の顔と重なり、ごくりと唾を飲んだ。

「いえ、なんでもありません。仕事が残っていたのを思い出しまして」

下手な嘘をつき、六郎はそそくさと立ち去る。

幸村はその背中に、心底悔やんだ悲しげな表情で、呟く。

「悪いことをしたな。……すまぬ、六郎」

幸村はその背中に小さく頭を下げた。
いらぬ負い目で六郎を苦しめていることが、幸村には辛かった。

六郎が来ることを知っていて、六郎が見ていることを知っていて、幸村は佐助を抱いた。

それは人に姿を見られることを酷く嫌がる佐助を傷つけるために行ったこと。
犯されている姿を他人に見せつけ、辱めるために。

佐助が傷つき、泣き叫ぶのは一向に構わないのだが、六郎がそれを気にするとは計算外だった。本当に悪いことをした。

幸村はしゅんとしょげる。

その悲しみと落ち込んだ心を慰めてくれるものはもういない。

 

 

 

いるのは憎い男が、ただ、ひとりきり。

 

 

 

人の憎しみは連鎖する。


人の愛は何れ断ち切れる。

 

 

 

05.04