何が過ちなのかも。何が罪なのかも。きっとわかっている。
何が許せなかったのか。何処で間違ったのか。きっと気付いている。



喉を震わせ漏れる声の甘さに、幸村は背筋に電流が走ったかのような錯覚を覚えた。

薄い光の下に白い肢体が晒される。幸村の目に喜悦が宿り、ゆっくりと幸村の手が佐助を犯していく。けれど未だ、波に浚われるような熱が二人をつつむことはない。

いまだ深くまじわらず、溶け合わず、ただひたすらに互いを感じあって。

幸村のなぜる手が、佐助のなかに切ない痺れと、痛みをうむ。
触れられた場所から、快楽が迸るようでもあり、熱した刃で裂かれているようでもある。

「嗚呼……」

腹の緩やかな曲線をなでる。ごつごつとした骨と筋肉の起伏は、慣れ親しんだ感触。自分が“付加”した女のようなやわらさも幾度も佐助のものだと思うと愛おしかった。
佐助の感触の”慣れ”は幸村のなかに言葉に出来ない安堵を生んだ。
それは、幼きころからふれていたもの。この腕に抱かれ、守られ、成長した。
それに触れることは、幸村にとって当たり前の行為で、違和感など与えない。
幸村の知る他人の体温をというのは、佐助の体温で。幸村の知る他人の感触というのは、佐助の感触なのだ。

今更、他のものに触れようと思っても、嫌悪がまじる違和感を覚えるだけで、ふれようと積極的に思えない。

自分のなかにふれ、とけこめるのは佐助だけだ。
ひとつになりたいと、おもえるのは佐助だけなのだ……

「さすけ」

呼ぶ名に、ぴくりと反応する。

閉じがちだった濡れた瞳がぼんやりと幸村を見つめ、とてもちいさくほんのすこし拙く、だんな、と唇を動かした。

何度も何度もこの名を呼んだ。
何度も何度も佐助に呼ばれた。

ああ、その声と音の安らぐこと……

興奮すると同時に、興奮が冷めていく。
高揚は性欲とは別の場所にあって、ただ心地よい場所に意識や感覚がおちていく。

子供のころに帰ったようであった。

無垢に笑っていたころ。無邪気に笑っていたころ。忍の一挙一動に知らず振り回されて、気付かぬうちにその姿を追い求めていたころに……


ああ、きっと俺は……


幸村は、かつての淡い記憶を呼びおこし、ちいさく息を吐いた。


佐助を好いていたのだ。


まだ幼くて、自分のなかにうまれておおきく成長しているものがなんなのかわからなかった。
ことばにできず、正体がつかめず、ただ漠然とした執着を抱いていた。
それがなんであるか、結局わからぬまま。わかろうとしないまま大きくなって、そして……

暗闇のなか、抱かれた。
男の顔は見えず、声も聞こえず、ただなかをえぐる感触だけがなまなましくのこっている。


なあ、佐助……おれはもしかしたら、愛している。といわれなかったから、こんなことをしているのかもしれない。


愛しているといわれさえすれば、こんなことをしなかったのかもしれない。


お前への思いは、自分が知らないだけで、とてもおおきくて深いものだったんだ。


だから、理由なく抱かれたことに怒りを感じたのだ。

愛しているとさえ言われれば……


暗闇のなかからお前へのいとしい気持ちを探しだして、許せたかもしれない……


愛し合って、お互いの心を確かめあいながら、抱きしめあって、つながりを深くしたのかもしれない……




全ては遅すぎたのだ。けれど、まだ、きっとやり直せる。

俺はお前への気持ちに気付いたから。

告げようと思う。

たいせつなことばを……

おまえは許してくれないかもしれない。
憎んでいるかもしれない。

でも……

すこしずつでいいから……

愛して欲しい……


でも、まだそれをお前に告げる勇気がないから。

あとすこしだけ、なにもいわないままこのあたたかさにひたらせてくれ。



しあわせだったときのことを思いだしながら、なんの確証もないのに信じていた。

大丈夫、きっとやり直せる、と。