武田の屋敷には猫がいる。
橙に近い茶色の虎模様の猫だ。

佐助に似たつんとした顔の作りをした猫だが、人なつこい。

人の顔を見れば顔をすりよせてくるトラ猫を、屋敷の者はよく面倒を見ていた。

誰かが飼っているわけではない。

勝手にいついてしまったのだ。
そんな猫は、わがもの顔で屋敷の一番日当たりのいい縁側でまるくなって眠っている。

その隣に座り、佐助は猫を撫でていた。

以前、猫が好きなのかと聞いたとき「嫌いじゃない」と答えていたから、多分猫は好きなのだろう。

佐助は素直に質問に応えること少ない。

佐助が「好き」と指すものは、大概ホントは嫌っている。

「どうでもいい」と応える時は、ホントは興味があるのだ。

佐助は天邪鬼だ。

それさえ理解して接すれば、これ以上にわかりやすい人間はいないと思う。

何を考えているか分からないと、口さがのない女中たちは陰口を叩くけれど、幸村からして見れば、佐助はそんな女たちよりわかりやすい。

「佐助は猫が好きだな」

とからかうように言ってやれば、

「そうでもないよ」

とさらりと返す。


嘘吐け、とからからと笑い、「好きでもなければそのように触れたりしないだろう」と猫を指さした。

「なんとなくなでてるだけだよ」

つん、とそっぽを向き猫をなでるのをやめてしまった。

幸村は笑顔のまま、猫を挟んで佐助の隣に座り、毛触りを確かめるように猫をゆっくり撫でてやる。

顔を向けてこない佐助は、目だけでこちらを気にしていて。

「ほら。やはり猫が好きなのだろう?某が猫を撫でだした途端、とても悔しそうな顔になったな、佐助」

幸村はまたからからと笑った。

「天邪鬼な奴だな。ほれ」
寝ている猫をだきおこして、佐助の膝に置いた。

「安心しろ。佐助から猫をとったりせぬ」

佐助に笑みを向けると、立ち上がり「しばらくそこで休んでおれ。仕事は某一人でやっておく」言葉をかけ去っていった。

佐助はそれを目でおい、背中が見えなくなると猫に視線を戻した。

「お前、旦那になでられたな」

声は淡々としていたが、顔は羨ましそうだった。

すねたように口を尖らせ、体をまるめて猫の毛に顔をうずめる。

「うらやましいやつ」

俺も猫になりたいな。と呟き、幸村のなでた手をなぞるように、鼻で猫の体をこすった。