渇いた喉を潤すように、獣は血を舐める。
そして飢えを満たすために肉を喰らう……
嗚呼、牙が……
ぷつり、と腹に牙をたてられた。
肌を裂き、肉に食い込む。
不思議と痛みはなかった……
(衝撃が強すぎて、痛みすら感じることが出来ないのか……)
痛くもなければ、悲鳴を堪える必要もない。
ただ、食われゆく恐怖と闘うのみ……
獣の目に、己が映りこんでいた。
ただ食欲を満たすための、行為。
ただ餌として獣の瞳に映る己。
佐助は肉を千切られるのを感じながら、酷く場違いなことを考えていた。
獣がもの食うさまは、美しい。
人のように味だとか関係なく生きるために物を食む。
本能、そのものが動かす、純粋な……
佐助の瞳は、酒に酔ったようにぼんやりしていた。
獣が、佐助の体を地に伏させる。
肉をちぎり易い位置に佐助を起き、更に深く貪るためだ。
獣が勢いよく、佐助の体にのりかかる。獣の口から飛び散った血が、彼の顔にぴちゃぴちゃと飛んだ。
唇についた己の血を舐める。
鉄の匂いを舌先に感じた。
ふふ、と佐助は緩く笑う。恍惚とした顔は、閨で満たされた淫乱な女のようだ。
下半身に熱が集まった。それは死ぬ間際に子孫を残そうとする、生き物としての本能なのか……
それとも、獣に食われるということに快楽を覚えた末の、欲情の発露なのか……
佐助は体が自由になっていることに気付いた。
倒される時に影を縛るくないが抜けたらしい。
雄がどくどくの脈を打っていた。
内蔵に届くほどにつきたてられた牙。
ぐ、と肉を削ぎ取られそうになる、その刹那――
白濁の液で衣服を濡らし、熱に解放された佐助は、今まで己を縛っていたくないで獣の急所を一瞬でついた。
獣の血を、直に浴びる。びゅうと血を勢いよく悲惨させ、佐助の顔を真っ赤に染めた。
どすん、と力を失った体が佐助の上に倒れこんだ。
佐助は暫く呆然として、獣の下にいた。
獣の血と、己の血が、まじり、衣服を汚す。
下半身の濡れた感触が気持ち悪かった。
佐助は死体の下から抜けだし、顔についた血を拭う。
はは、と佐助は渇いた笑いを溢した。
(俺は……)
言葉には出来ない、確信が佐助にあった。
獣に喰らわれることに、異常なほど高揚した自分。
達してしまった男の部分。
佐助は慣れた手付きでぐちゃぐちゃになった下衣を脱ぐ。
佐助は恐る恐る、自身を扱く。自分で慰めることは十三という年齢もあって、まだ少ない。その手はぎこちないが、快楽の位置を知っているかのような的確さで、性感をつく。
しかし、佐助自身は萎えたままで立ちあがることはなかった。
あの食われる行為に、快楽を感じて、佐助の体はこの程度では感じない体に作り変えられた。
あの、たった一瞬で。
それを、佐助は嘆くことはなかった。
寧ろ、あの感覚にまた恋い焦がれた。
女のような欲情の仕方だと思ったが、佐助は自身の根幹にある感情を、淡々と受け入れた。
「旦那……俺がね、あんたの下にいるのはこういうことがあったからなのさ……」
佐助はくす、と笑う。
女を抱いても、欲情出来ない。
男に抱かれ、牙を突き立てられたときのように雄で貫かれて、ようやく佐助の中の熱が吐き出されるのだ。
自慰、など佐助は行わない。
佐助は幸村に抱かれる時だけ、欲情し精を吐き出せる。
「お前は欲望に晒されるのが、好きなのだな」
幸村の嫉妬に溢れた顔に、佐助は苦笑する。佐助が獣に食われるときに欲情したことが、余程気にいらないらしい。
「ちがうよ」
佐助は首を振る。
「獸の牙に感じるたのだろう?性欲に縁のないはずの忍が、随分と淫乱なことだ」
幸村は佐助の着物の中にするりと手を侵入させ、乳首をいじる。
「や、あっ……あっ……」
佐助の体は素直に反応する。
「抱かれるのが嫌だと言っていた割りには、喜んでいるな」
幸村はにいと唇を吊りあげる。
佐助は顔を赤らめてそらした。
(あんたが黒くなるから嫌なんだよ)
佐助は心中で呟く。
「お前に牙をたてるのは獣ではなく、人だ。お前の体に、幾度も俺で満たしてやる」
幸村の言葉に、佐助は悲しいような嬉しいような表情を浮かべ、幸村を受け入れた。
(あの獣には感謝してる……)
(俺が今、こんなにも幸せなのは、あいつのおかげ……)
女のようにあえぎ声をあげ、幸村の熱を受け、己の熱を吹き出す。
「佐助……」
佐助を高みに導きながら、幸村は囁く。
「例え、お前が獣との出会いがなくても、俺はお前を俺だけにしか欲情しない体にしていたぞ……」
幸村の甘い言葉に、佐助は卑猥な矯声をあげた。
了
何を書きたかったのだ?