す、と襖を閉めると、幸村は佐助の膝に腕をいれ、背中を支え横抱きにかかえ上げた。

「何さ、旦那」

佐助の全く……と諦めた様子は、慣れを感じさせる。
「ああ、あんたまた布団敷きっぱなしで……」

つ、と視線を下ろした先には乱れた布団。

幸村は佐助の咎める声音を無視して、佐助を布団に横たえさせた。

佐助の体に、覆い被さり顔を近付ける。

「さあ、聞かせてくれ」

「……これが人に話を聞くっていう体勢?」

今にも口付けされそうな距離。

「仕方ないであろう?」

「なにが?」

「俺は佐助を抱きたい」

幸村の正直すぎる告白に、ああ、そうかい。と佐助は毒吐いた。

(言われなくても分かってるけどさ)

幸村の目は隠しごとを出来ない。

(分かりやすいのはいいけど、ちっとはその目に晒される此方の身になって欲しいよ)

「すぐには抱かん」

幸村は佐助の耳をべろりと舐めた。

「お前が話終わるまで待ってやろう」

「……だったら話さないよ」

抱かれるの嫌だもん。

茶目っ気を込めて舌を出せば、それを幸村に捕まれる。

「なにふるのは(何するのさ)」

掴んだ舌を、舐める。

唾液が舌先で絡みあう、気色悪い感触。

「話しをしないなら、お前の中に慣らさず入れるだけだ」

にこりと聞き捨てならぬ台詞を発し舌から手を離す。
下衣に手がのび幸村の本気を感じ取ると、佐助は手をのばしそれを止め、「わかったから!」些か動揺して幸村に従った。

「子供の頃の話だよ……。同じ年頃の忍仲間と、影踏みをしたんだ……」

それは、
とても、
残酷な、
子供の、
あそび。

『楽しいね』

「見習いとはいえ、忍のやることだ。ただの影踏みじゃない。影縛りの術の練習も兼ねた、実戦的なものだった」

影を、
縛り、
残し、
それだけでは足らぬというように、
血を、
撒く。
獣を、
呼ぶ。

『無事、生き残れるといいね』

「最初は、影縛りの術の威力を競うだけだったんだ。それがいつの間にか、仲間を少しずつ選別するための、篩になった」

誰かが、
言った。
誰もが、
言葉に、
頷いた。

『面白そうだね』

「ただでさえ、辛い修行についていけず減っていく仲間を、自分たちで殺そうっていんだ。普通じゃない」
影を、
縛り、
笑い、
残し、
血を、
撒き、
獣を、
呼び、
死に、
泣く。

『君の敵は僕・私・俺がとるからね』

「仲間の死を悼むんだ。けれど、その遊びは終わらない。誰も、やめようとは言い出せない。やめることが出来なくなっていたんだ」
子供の、
遊びを、
抜ける、
ものが、
出始め、
みなが、
それを、
責めた。

『俺は、忍になった』

「影踏みをやめる奴らがいた。そいつらは、決まって夜の世界、一度取り残され、そして獣に殺されずに、生き延びたやつらだった」
みなが、
気付く、
これは、
ふるい、
なのだ、
と……。

『耐え忍、夜の恐怖に勝ち、獣の恐怖に勝ち、己の存在を消し、生きることが出来なければ忍にはなれない』

「歌を唄いながら、影を踏むんだ。そして俺は、ある日捕まった」

影を縛られ、立ちつくす。
苦悶に歪めた顔や硬直した体に獣の血や肉をなすりつけられる。

(嗚呼、生臭い。早く体を洗いたい)

……けれど、その前に生き延びないと。

子供たちが消え去った。

たった一人起き去りで。

ぽつんと佇む、闇の中に。
誇りの高さ故か寂しさをまぎらわす一人言も言えない。

自分以外の気配も感じない。

自分以外の気配を感じたら、それは獣の宴の始まり。
若い肉を食うための、血まみれの晩餐……

(食われる?俺が?)

体に血をなすりつけられたら、気配を消せばいいどころの話ではない

(体に付いた血ごと、獣に俺は喰らわれるのか?)

「恐怖も、諦めもなかった。ただ、俺が死んで、奴ら……俺の影を縛った奴らを喜こばせるのが嫌だった」
(例え死ぬとしても、忍として痕跡も残すものか)

腕だけや、足を残すような醜いことはしたくない。

ましてや頭など残したくない!

(食うなら全てを食っていけ)

抵抗もしない。(最初から抵抗出来ぬが)

見苦しくうろたえもしない。(潔く死んでやるさ)

体を差し出してやるさ……
(だから、俺という者が生きた証を全て消してくれ)

残さず食うがいい。



「ん……いきなり、何するのさ旦那。話しはまだ終わってない」

「昔の話しだとしても、俺以外の者に全てを差し出すという言葉が気に入らなくてな」

「あのねえ……」

「話しの骨を折って悪かったな。続けろ」


佐助はくたびれた様子の瞳を閉じた。



瞼の裏に蘇る、あの時の記憶……

獣は佐助の側に訪れた……