―――影を踏もう
―――影を踏もう
―――影を踏まれた奴が餌!
―――影を踏まれた奴が囮!
―――影を縛られ動けぬ間抜けは妖しを呼びよせ餌になれ―――
影踏み遊び。
旦那に頼まれた菓子を買いに町に出たら、影踏みをして遊ぶ子供たちを見つけた。
きゃっきゃっと笑い声をあげながら遊ぶ子供たちを見て、ふいに懐かしい歌を思い出す。
子供が歌うにはしばし物騒な、影踏みをするときに歌った歌―――
「影を踏もう
影を踏もう
影を踏まれた奴が餌
影を踏まれた奴が囮
影を縛られ動けぬ間抜けは妖しを呼びよせ餌になれ」
耳に鮮明に蘇る。
同年の忍仲間と、幼い頃は影踏みをした。
無論忍のやることだ。ただの影踏み遊びではない。
影縛りの術の修練も兼ねたものである。
忍の修練が終わったあと、それでも足りないと言うように、仲間たちと夜の世界に飛び出し、影踏みをした。
月の光に照らされて、夜の闇の中にも影が出来る。
黒い黒い影を踏む。
影を踏んで、苦無を突き刺す。
動くなよ。
そう命じる傍らで、
動けるわけがない……
という慢心が内にあった。
踏まれた影を繋ぎとめ、夜の世界に残して消える。
忍と言えど、子供が夜の世界に残される恐怖はいかばかりか……
夜の世界は忍の世界。
死の世界。
濃密な濃い闇は、死者の淀み。怨み。
獣の血を撒き散らし、そのにおいで生きた獣を呼びよせる。
<気配を悟られたら無抵抗で、生きたまま獣に食われる>
気配を消しきれず、何人の仲間が死んだだろう。
里の長はその遊びに何も言わなかった。
その程度で死ぬ子供は、鍛えても使いものにならないと、切り捨てる為の篩(ふるい)にしていたのだ。
(俺は誰よりも、仲間を殺した)
特に親しい者はいなかった。
彼らが死ぬことに何も感じなかった。
(だから、あの時、狙われたんだろうな)
子供の忍見習いで、完璧な忍などいない。
佐助のように全てを切り捨てられる冷酷なものなどほとんどいなかった。
子供は弱い故に仲間を大切にした。
子供は弱い故に仲間を求めた。
(冷静に、計算した上で仲間を求めるならいい。だが、忍に馴れ合いは不要ということを、彼らは知らなかったんだ)
馴れ合いは甘えを生む。
馴れ合いは情を生む。
情は、甘えは、忍を堕落させる。
……その馴れ合いに、一度だけでも負けたのは、一生の不覚。
けれど、あの時の夜の経験は、一寸も違わず佐助の中に息ついてる。
(あれは忘れることの出来ない衝撃だった)
「佐助」
記憶の波に、身を任せていると、名を呼ばれた。
聞き慣れた声に振り返る。
「旦那」
主の怪訝な表情に苦笑する。
「何をぼうっとしているのだ?」
幸村は、珍しいこともあるものだ、と感心するより、佐助を心配する色のほうが濃い瞳を向けてくる。
「昔のことを思い出してた」
佐助は正直に答えた。
「昔?」
「うん、そう」
懐かしむように、影踏みをする子供たちを見る。
その表情は、いつも暗い影ばかりを目に浮かべる忍とは似ても似つかぬ満ちたりたものであった。
「どのような話か聞きたい」
厳しい表情しか浮かべない佐助の相貌をこんなにも崩す思い出を、幸村は知りたかった。
「面白い話じゃないよ」
いつの間にか真剣味をおびてきた幸村の気配に、困ったように眉根を寄せた。
「面白くなくても」
幸村の武骨なごつごつした指が、佐助の滑らかな肌に触れる。
頬をつ、と柔らかく撫で、目尻につくと、ぐっと顔を寄せ、切な気に呟いた。
「お前をこんなにも笑ませるのだ」
情欲の焔を燃やす目と、冷めた氷りの中に小さな燈を持つ目がかち合った。
「どのような話か、気になるだろう?」
欲情を防御も心構えもなく叩きつけられた佐助は、思わず怯む。
瞳の中に、己以外への憧憬を浮かべている佐助に、幸村は舌打ちする。
「な、なんだよ。旦那、いきなり舌打ちして。失礼な人だな」
す、と幸村は佐助から離れ、「屋敷に帰るぞ」と冷たく命令した。
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