風鈴
こんなにも胸が痛いのに、おれは貴方を思うことをやめられない。
それが叶わぬものだとしても……
それは願い
影分身を残して、店を去る。
俺は急ぎ自室に戻り、寝ているふりをする。
想像していた通り旦那は俺が言ったことなどけろりと忘れ、騒がしく足音をたて、俺の部屋にやってきた。
「佐助!佐助!」
勢いよく開けられたせいで戸が外れる。
べりっと布団をひっぺがし、頬を紅潮させた幸村は寝転がる佐助の上に馬乗りになる。
子供のように眠る者を揺すって叩きおこす。余程興奮しているようだ。
「風鈴のおなごと出会えたぞ!佐夜どのというのだ!」
(言われなくても知ってるよ。何せ俺が化けた姿なんだから)
「そりゃあ良かったね。旦那……名前も聞けて喜ばしい限りだ……だけどね、旦那。俺、言わなかったっけ?」
佐助の凄む表情にあ、と幸村は口を開ける。慌て佐助の腹の上から降り、すまぬ!と頭を下げた。
「いいですよ。ぐっすり一刻ほど眠れましたから」
皮肉のように一刻に力を込める。
それに幸村はしゅんとしてうなだれる。叱られた子犬のような姿に、佐助は苦笑をこぼした。
(謝るべきは俺なのに、なんておこがましいことを言っているのだろう……)
演じる自分に吐き気がした。
「冗談だよ旦那。きちんと眠れましたよ。一刻眠れれば十分さ」
佐助の言葉に、幸村の表情は晴天の太陽にキラキラと輝いた。
その笑顔に、罪悪感を覚える。
子供のような君の純粋な心を騙して、
自身を偽ってなにをしているだろう?
嗚呼。
俺は罪人。
赦されざる罪を冒したもの。
續罪も赦されない大罪人だ。
けれど俺は……
それでも尚その人の笑顔を独占したいと思ってしまうんだ……
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