風鈴


嗚呼、君は来てしまったんだね。


来ることは分かっていたけれど、いざ貴方を目の前にすると、俺の胸は早鐘を打った。

それは苦しみ


正体がばれやしないか。

俺だと気付きやしないか。


俺は恐ろしかった。

それは戦場や諜報の任にたつより、俺に恐慌と混乱を与えた。

上手く笑えているだろうか?



貴方に違和感を与えていまいか?





ねえ、旦那……







なんで旦那は、俺の"内"をこんなに掻き乱すの?

わかんないよ。

くるしいよ。

なんで?

なんで?



熱いんだ。

目の奥が熱いんだ。

叫びたい衝動にかられるんだ。
言葉にできないんだ。


ねえ、俺は。



上手く笑えているのかな?




チリン。

チリン。

「名を、知りたいのだ……なんという名なのだ?」

涼しげで寂しげな音が、胸につきんと刺さる。

「佐夜、といいます。お武家さま……」

もとの名をもじったのは、皮肉なのか。

無意識のうちのさけびなのか……

チリン。

チリン。

「佐夜どのというのか。良い名だな。某は、真田幸村と申す」
チリン。

リン……

途絶えぬ風に翻弄されて、鈴を鳴らし泣く風鈴。

まるで、"俺"みたいだ。




「ゆきむら……さま……」




その名を呼ぶことに、俺は酷く違和感を感じるというのに、君は嬉しそうに笑うんだ。



リン……



それは、猿飛佐助が、独占していた笑顔ではなかったか……




「佐夜どの、風鈴の礼をしたいのだが……」





佐夜……




そんなもの。





そんな女。







本当はいやしないんだよ。






ねえ、旦那……





気付いてよ。




(怒っていいから)
(嫌いになっていいから)
(殺していいから……!)


リン……チリン……


「そんな……お気を使われなくてもいいのですよ?あれはお礼なんです。助けていただいたお礼。それに、そんなに高い物を贈ったわけではないのですから、お礼も何も……」






旦那が、すがるように俺を見つめる。





俺は、その目に弱いんだ……




やめてくれ……




「すみません……
仕事がありますので……」





この場はなんとかそれで乗りきったけれど……





旦那がそれで諦める訳がないことくらい、よくわかっていた。






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