殺意のありか

佐助は忍ぶことを忘れていた。
目の前の男を殺すことに重きを起きすぎていた。
ひとを殺すという恐怖と嫌悪が、逆にそれ以外の思考も集中も遮断させた。
己が忍であることをこだわりすぎた結果、忍としての在り方を忘れた。それは本末転倒であったが、硬直させていた佐助を動かしたのも事実。
任務自体、佐助の頭になかったのかもしれない。
男を殺す。
それが、佐助の壊れそうな佐助の精神にのしかかり、悲鳴をあげさせる。
佐助は天井板を外し、畳張りの部屋におりたった。新しい畳の若草のにおいが、埃のにおいに慣れた鼻にすうと入っていくが、それに心地よさを感じるほどの余裕もなかった。
ただ、肺に空気がはいり、体に巡っていく。

「だっだれだ!」

男は叫んだ。当たりまえだ。天井裏からいきなり人が表れたら警戒し恐怖する。
後ろめたければそれに拍車がかかる。

「だれか来い!くせも――」

男の口は最後まで叫ぶ前に、強制的に黙らされた。男の大きく空いた口に苦内が放たれ、喉を貫通し苦内の先が後頭部から飛び出す。
駆け付けた家人が見たものは、大きく口を開けて立ち尽くす主といかにも怪しげな風体のもの。家人からの角度では、主の口内に深々と苦内が刺さっているのは見えなかったが、不穏な気配を感じ取り、衣を裂くような甲高い悲鳴をあげた。
それが連鎖する。
主の悲鳴を聞いて訪れたものたちが、家人の悲鳴を聞いて駆け付けたものたちが、恐怖と危険に悲鳴をあげた。
悲鳴は断末魔にかわる。
佐助は自分の視界に入ったものを全てを殺していく。
――殺さなきゃ
――殺さなきゃ
――殺さなきゃ
強迫観念のように追い立ててくるそれに、佐助はひとを殺していく。
殺すという意思のもとに刃をひとにつきたてる。
そのたびに佐助は己の中の何かを殺していた。
大事なものが疲弊し磨耗しすりへって消えていく。
人を殺すたびに壊され原型がなくすほどかけて無様に皹がはいり崩れていく。
何人殺しただろう。
何度壊しただろう。
屋敷中が静かになったとき、佐助は死体だらけの血の海に、ただひとり佇んでいた。