構想中の話?
罪悪感というものは抱えなくてもすむものならば抱えないほうがいい。
最初から悪いと思っているのはそれは誰に何を言われようと、己が後から後悔するものは跳ね退けるべきだ。
自分のちっぽけな矜恃と意地をその場限りで保つためにうんと頷いて了承などしないほうがいい。
……と、後からそんなことを思ってたところで遅いのだろう。
「ん?どうしたのユキ。暗い顔をして」
幸村の横顔を伺う佐助が不思議そうにぽかんとしている。
気分でも悪いの?と何時もと変わらぬ淡々と胸に響く声が問う。
いや、と幸村は首を振った。
長い影がそれにつられて些か揺れる。
変わり映えのしない暁色に彩られたアスファルトの道路。
子供が帰ったのか誰もいない公園。
きいきいと金属が擦れる音が風と共に響いた。
東の空は藍色が滲んでいた。
「それにしても、おかしいよ。最近」
睫毛に縁取られた目が伏せられる。
幸村は視線が自分から外れたのを感じ取り、ちらりと盗み見る。
正面から見ると切長の目やそれの放つ意思の強さに目を奪われがちだけれど、横顔を見ると睫毛の長さがよくわかる。幸村は佐助は繊細な顔立ちだと思う。
美人だとか綺麗だとか格好いいとか。女子にあまり騒がれることはないけれど、自分にはない静かで刃のような空気は佐助に端正な印象を与える。
「なにか、あった?」
幸村を案じるというより、胸に抱える違和感を吐き出しているように聞こえる言葉。
秘密を暴かれる恐怖に、幸村は脈を早くした。平静を装い、いいや、と再び首を振る。
「そうは見えないけど……?」
幸村が佐助と目を合わせようとしないので、諦めたようだ。
ふうん、と唸りまた赤い道路を見つめる。
どちらにしろ、佐助には隠しごとをしていることがばれた、と幸村はひとり焦る。
明らかに挙動不審になる幸村に佐助は眉を下げて苦笑を浮かべた。
「やっぱりさ、俺と一緒にいるのは嫌?」
幸村のだんまりの理由を別の意味で取った佐助。
自虐的な光に目を曇らせ、悲しむのではなく、それを受け入れている淡々した声が幸村の胸を掻き乱す。
「違う!そんなわけなかろう!」
佐助の隣にいるのは楽しいし心地よい。
後ろめたいことさえなければ、ずっとそこで安呑としていたいとしら思える。
「無理はしなくていいからね」
幸村の必死な態度をさらりとかわす。
あしらわれているようで幸村は歯の奥を軋ませた。
一見穏やかに見えるが、心の底を全く見せない佐助は、幸村からすれば冷たい。
佐助にとって自分はどうでもいいという態度に、肩が落ちる。
暗憺たるものが鉛のように体にたまり、歩くのが億劫に思えるほど足が重い。
「俺は、佐助の側にいるのが嫌だとか全然思ってないからな!」
幸村は叫ぶように言った。
その真剣さに、佐助は幸村を信じたのか、ほっとしたようにそうかと頷いた。
嫌われているより、嫌われていないほうがいい。
嫌われていないかと疑っているより、嫌われていないと確信したほうがずっといい。
佐助は、自分が傷付かないようにするために、少しだけ臆病だった。
佐助は幸村を心の何処かで信じていない。
もしも、幸村に裏切られたときに、信じていたら、傷付くのは自分だから。
心を開いているようで閉じている。
幸村には、それが悲しかった。
今、自分が佐助と共にいるのは、佐助が恐れる裏切りを前提としているのに。
なんて、ひとりよがりなんだろう。
……幸村は佐助に隠しごとをしている。
四既