それは眠りにおちるような覚醒である。
幸せなまどろみから悪夢に変じていくような身も凍る絶望。佐助にとって眠りのなかにある幸せな夢こそが現実であり、眠気が徐々に抜けていくと同時に悪夢のなかに身を浸しているような錯覚を覚えるのだ。
目が覚めたら、そこには見慣れた自分の部屋の天井があるはずだが、飛び込んできたのは冷たい石の床。
家族の笑い声やあたたかな朝の匂いがただようあたたかな光景。
思い描いた情景はことごとく裏切られる。そこに佐助の知る現実はなく、無情にも佐助の耳に寂しく届くのは風の寒々しい空気を裂く音と、ひそひそと気分が悪くなるような人々の話し声。すすり泣く人びとの声と、鼻をかすめるのは最早慣れてしまった汚臭であった。
獣のように丸めていた体少しずつ伸ばし、佐助は悪夢のなかの住人となる。
幸せだった生活を奪われた絶望と、先の見えない不安から、佐助の目は自然、淀む。死人のような目だった。
屍が立ち上がるようにゆらりとした動作で立ち上がる。
「今日は……死ねるかな……」
佐助の手には、一本のナイフがあった。
使いこんだそれは良く手入れされ鋭い輝きを放っているが、何処か禍々しい気配を帯びていた。
夥しい血を吸い取った妖刀さながらの圧迫感があり、佐助はそれに憑かれ引きずられるように動いているという印象がある。
佐助がおきあがり向かうのは暗い印象のただようスラムのなかで唯一、活気のある場だ。

没ネタ。このあと幸村が佐助を拾う予定だったけど、佐助が上司のほうが書きやすいのでこっちが没

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