佐助が上司。幸村が佐助の家に住む理由


まったく。どちらが世話をしているのか分からない。困った部下を持ってしまったものだ。
佐助はぼやきながら朝食を取る。
朝食は日本食派だが、給士の気紛れか食卓に並ぶのはパンとコーヒーにサラダとベーコンエッグ。
箸がない?とたずねれば、わたされたのはフォークとナイフ。
仏頂面で渡されて、なんだかそれに文句を言う気もうせた。
テーブルマナーは身についているから、目もそらしたくなるような悲惨なことにはならないが、俺の部下はどうなのだろうと思考が働く。
ここ数日ですっかり給士もなれたのか、幸村のために用意した朝食についているのは箸である。
彼に洋物を扱わせては食卓が惨状になると、彼も思っているようだ。
どたどたと音をたてて、シックな音楽が軽やかに聞こえてきそうな雰囲気が、(事実、家人が気を利かせてかけている洒落たリズムの西洋音楽が)騒々しさにまぎれて消える。

「お、おはようございます!猿飛少佐!」
「おはよう。真田少尉」

今日も早いね。とテーブルの上で組んだ手の上に顎を乗せた格好で言えば、幸村は顔を真っ赤にさせた。
「も、もうしわけありませぬ!」
部下であれば上司よりも早く起きなければ。それに自分は上司の家に部屋を間借りしている身である。
朝早くおきて雑用を手伝うなど、することはいろいろあるだろうに。
幸村は毎朝そう思うのだが、朝に弱いせいか思うようにいかない。
そもそもこの時間帯に自力で起きられるのも奇跡のようなものなのだ。
「ま。気にしないで。朝食作ってあるから食べなよ」
佐助がフォークで幸村の分の朝食を指すと、行儀が悪いと給士の青年がたしなめる。幸村はその掛け合いを眺めながら、用意された席に着いた。
上司の家という居心地の悪さのせいか心苦しいせいか、胃がきりきりと痛む。
幸村はしかし自分のために用意されたそれを残すことができず、胃の中に無理矢理詰め込んだ。


幸村の実家から職場とする軍の駐屯地は遠く、馬車で一時間ほどかかる。
それに輪をかけて幸村は朝が弱くなかなか起きられない。
佐助の部下となる前も寝坊が原因の遅刻ばかりで、軍では有名だった。
そんな規律違反の彼が懲罰も受けず軍を辞めさせられないのは軍の上層部に彼の父親や彼をかわいがる大物がいるからだ。その大物というのが佐助の祖父で、武田信玄という。
遅刻さえなければ人柄も能力も有能で、軍のものの反感が少しは減るんだけどなあ。
幸村をしるものはすくなからずそう思っていた。
信玄が目をかけているせいか、えこひいきを幸村の能力が資質を疑うものが軍にはすくなからずいる。
父親のこともあるから出世できたのは親の七光りと影で噂するものもいる。
そういう状況を改善させるために、幸村は佐助に預けられた。佐助は軍の施設に一番近いところに家を構えている。
幸村が多少寝坊したところで大丈夫というわけだ。
それに自宅ではなく上司の家で眠っているという緊張感が、幸村をきちんと目覚めさせるだろうと。
その思惑は今のところあたっていて、幸村が遅刻したというのはこの一週間ない。

「そんなにあわてなくても、時間はたっぷりあるよ。昨日と違ってね」
口もとだけ笑みの形をつくり、幸村を眺める。
幸村はそれにうっとつまり、箸を止めた。

幸村は、この一週間。佐助のおかげで遅刻したときがない。
しかし、必ずしも余裕のある朝の時間を送ったわけではなく、遅刻しそうになったときは、あるのだ。しかも、佐助を道連れにして。

皮肉屋の上司を持った部下。
世話のかかる部下を持った上司。

この場合どちらが不幸なのか。
それはふたりのみが知る。



軍人サナサス祭りさんに投下したかったけれど、佐助が上司という異色なので自粛。

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