「佐助。お前に、ひとつの任務を与える」
そう、命じる先にいるのは、何時もよりも動き憎い着物に辟易している風の、十二、三歳程度の少女である。
橙色の髪を小さな簪が飾っている。
「別にいいけど。なに、初めての任務は何処かのお姫さまの影武者でもやればいいの?」
里の長に対し、敬意も何もない態度に、何時もは叱り飛ばす里長がふ、と遠くを見つめて笑う。
「影武者では、ない」
「じゃあ、なに」
里長の目は、遠くを見つめて帰ってこない。
「悟蔵が乳飲み子だったお前を連れて来て、はや十年」
「そうらしいね。で、俺は何をすりゃいいの?」
「十年前、甲斐は荒れていた。内乱だ。信玄公や、その身内を狙う暗殺が耐えなかった」
「それで」
「それも三年ほどで落ち着き、だがまだ武田の地は不穏さを孕んでいた。だが七年の月日をかけ、家臣は一致団結し、天下統一に向け、戦っておられる」
「ふうん」
「武田軍は強い。だが、弱味がある。それはその血脈を継ぐものが勝頼さまただひとりしかおられぬということだ。
他の兄弟の方々は戦で既に命を落とし、跡目争いがないという意味ではよいかもしれぬが、勝頼さまがなくなられれば、武田の後を継ぐ者がなくなる」
「そりゃあ大変だ」
「勝頼さまにお子はおられない。いることにはいるが、十年前の騒ぎで何者かに連れ去られて行方知れずとなった」
「ほうほう。話が読めてきたぜ。俺にその死んだか生きているのか分からない姫さまの代わりになれってこと?」
「いや、代わりというか」
言い憎そうに言葉尻をすぼめ。
「お前がその本人というか」
一瞬、佐助が固まった。
「はあ?」
「行方知れずの真相というのが、愛娘を殺されることを恐れた勝頼さまが信頼のおける忍に断腸の思いで娘をたくし、連れ去られたと周りにいったというものなのだが……」
「その信頼がおけるっていうのは、悟蔵で……」
佐助は恐る恐る言う。
「姫はお前だ」
里長は困りきった顔でいう。
佐助は開いた口が塞がらない。
佐助はばっと衣服を脱ぐ。
幼い膨らみの乳房が露になり、里長は顔をしかめる。
「姫君がはしたないことをするな」
「あ、の、なあ!こんな傷だらけの姫君が何処にいる!」
佐助が示すのは、辛い忍の修行で負った、酷たらしい傷痕である。
「仕方ないだろう。姫なんて知らなかったんだから」
悟蔵は佐助が誰の血を引いているのかを誰にも語らず、佐助を里に連れてきてすぐに死んだ。
まさか佐助が武田の姫とは知らず、残された佐助をただ食わすわけにはいかないと、忍として育てたのだ。
そしてつい先日、悟蔵を訪ねてきた武田の忍の話に、里の中心人物たちは驚いた。
そしておののく。
(やっべーおれたち武田の姫にめちゃくちゃ怪我させてんじゃん)
忍の技まで叩きこんでいるのだ。
それが武田に知れたら。
「こんな弱小の里など虫のように簡単に潰される」
そこでだ。
半裸の佐助に、里長は命じる。
「忍であるお前最初で最後の任務だ!忍であることと傷を隠し通せ!」
忍であることを隠せというか、自分たちにとって都合の悪いことは隠せといいたいのだろう。
佐助は自分の中に流れる血が本当に武田のものなのか疑いながら、飽きれながら頷いた。
しかし、彼らはそんなに気にしなくても良かったのだ。
武田の屋敷についた佐助を待ち受けているのは"普通の少女には厳しい"後継ぎとしての鍛練なのだから。
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